本餅究は、船舶が氷甲を進む際の氷と船体との干渉に起因する抵抗を氷の破砕現象や氷片の運動から整理し、数値解析用のモデルに落とし込むことが主たる方針である。そのため、当初は氷海船舶試験水槽(以下氷海水槽)での氷中模型試験を計画し、氷片挙動の高度な観測を実施する用意をしたところ、震災影響で氷海水槽の運転が約1年間停止され、模型試験は少なくとも平成24年度での実施可能性を再検討することとなった。これを受け、平成23年度は本来予定していた数値解析のツール整備に充てることとし、必要と思われるスペックの高機能計算機を調達して試稼働させた。この計算機は、動作周波数2.26GHzのコアを4基内蔵するCPU(インテル製Xeon E5607)を2基と、12GBの物理メモリを搭載するものであるが、最大の特徴はGPGPUと呼ばれる画像処理用演算装置を汎用計算に利用できるグラフィックボード(NVIDIA製Tesla)1基を内蔵したことである。これにより、特に行列演算のような単純処理が多数繰り返される性質の数値計算を十分高速に進めることができ、これをCPUの増強で達成するよりも総コストが低減されることが期待できる。一方、氷中模型試験で観測される現象の数値モデル表現は模型試験の延期に伴い予定通りには進められなかったものの、氷の破砕及び氷中抵抗の既存の文献を収集し、理論的・実験的抵抗推定式の整理や精度について調査した。例えば、船級協会が定めている氷中航行時の出力推定法には、多くの実船データから導かれた半理論的抵抗推定式が含まれている。現在これはある範囲の大きさの船以外には不適であることも分かっており、今後本研究で構築したモデルの比較対象や精度確認として参考にする一方、あるいは推定式の代替としてのモデル利用といった展開も想定できる。
|