研究概要 |
本研究では,ホタテ貝殻粉末のVOC吸収剤としての実用化の見通しを得ることを目的とした。 VOCとしては,もっとも代表的なホルムアルデヒドおよびブタノールを用いた。 まず,VOCの吸収能力の定量的評価方法として,吸着量測定装置内のホルムアルデヒド蒸気濃度を精密に測定して、定量性の高いホルムアルデヒド吸着量測定技術を確立した。つぎに,その吸収能力を本提案の「微小ボールを用いた遊星ボールミルによる乾式微粉砕法」で飛躍的に向上させることを試み,以下の工学的知見を得た。 (1)遊星ボールミルを用いた粉砕により表面が活性化したホタテ貝殻粉末は、水との反応性・溶解性が高く、さらに水の添加は比表面積を10倍程度増加させる効果(比表面積40~50 m2/g、球相当径:50~60 nm)もあることを見出した。まず粉砕により粒子表面の結晶構造が破壊され、表面部分から非晶質化が進行する。この時点では,原料粉と比べて粉砕物の比表面積はほとんど変化しないかわずかに増加する程度である。非晶質部はカルサイト晶(ホタテ貝殻の主成分)よりも溶解度が高く,水添加によって溶出する。その結果,一次粒子サイズまで分散して,比表面積が増加したと考えた。 (2)上述の乾式ナノ粉砕法を利用して結晶性の異なるホタテ貝殻粉体を得た。結晶性とホルムアルデヒド吸着量の関係を調べた結果,結晶子サイズの小さい粉体は大きな粉体より単位面積当たりの吸着量が2~5倍増加した。具体的には,結晶子サイズ42~64 nmの貝殻粉体を用いた場合,吸着量は0.10~0.15 mg/m2であったのに対して,結晶子サイズ13~40 nmでは0.23~0.51 mg/m2であった。このことから、ホタテ貝殻粒子の表面構造はホルムアルデヒド吸着に大きな影響を及ぼし,結晶性が低くかつ比表面積の大きな粉体がホルムアルデヒド吸着剤に適していることが分かった。
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