H22年度はトリメチロールデセンを基体とするカルボン酸誘導体、ピリジル誘導体、リン酸誘導体を調製し、さまざまな金属イオンの抽出特性について検討した。母体となるトリメチロールデセンは10-ウンデセナールとホルムアルデヒドを水酸化カルシウム1存在下で縮合して合成した。このトリオール体を基体として、ブロモ酢酸エチルを反応させた後に加水分解を施すことによりカルボン酸誘導体を、トリオール体とクロロメチルピリジンと反応させることにより2-ピリジル誘導体を、またクロロリン酸ジエチルと反応させた後に加水分解することによりリン酸誘導体を合成した。これらの抽出試薬を用いると、カルボン酸誘導体ではアルミニウム族のうちガリウムとインジウムに選択性を、ピリジル誘導体では銀やパラジウムに選択性を、リン酸誘導体では希土類金属、特に重希士類に選択性を示すことが分かった。また、対照化合物として三脚のうち二脚のないモノ誘導体と比較して、これら誘導体は著しく高い抽出能力を有していることが明らかとなった。トリメチロールデセン母体は狭小で比較的制御された金属配位部位を提供できるため、金属イオンとのサイズ認識や化学量論ならびにHSAB理論に基づいて、選択性が現れたと考えられる。また、これら試薬の水相への漏出について調べたところ、カルボン酸誘導体ではpH3.5以上で、2-ピリジル誘導体ではpH3.0以下で、リン酸誘導体ではpH1.5以上で漏出が観察されたため、抽出剤をイオン交換体に担持するか含浸するなどイオン交換樹脂として利用しなければならない必然性を確認した。
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