研究課題
本年度は、タングステン結晶の格子欠陥の移動における周辺水素原子の効果を明らかにするため、格子欠陥と水素原子との相互作用エネルギー、水素存在下での欠陥移動の遷移状態と振動エネルギーの第一原理計算を実施した。本計算は、quad-coreのCPUを2個実装した大容量メモリのハイパフォーマンスコンピュータを新たに導入して行った。原子空孔の他に、不純物として格子間に固溶した炭素原子に注目し、タングステン結晶中での炭素原子と水素原子との相互作用エネルギーの第一原理計算を実施した。その結果、隣接した格子間サイトの炭素原子と水素原子との間には大きな斥力相互作用が働くことが示された。格子間サイトの炭素原子と水素原子に付随する分数電荷(fractional charge)を、Bader法を用いて計算した結果、それぞれ負に帯電していることが示された。したがって、斥力相互作用は、負の分数電荷をもつ粒子同士の静電反発によるものであるという説明が与えられた。斥力相互作用のために、水素原子と隣接した炭素原子の格子間拡散の活性化エネルギーが低下することを示した。活性化エネルギーの低下に伴い、隣り合う格子間サイトに飛び移るレートは増加する。水素原子との斥力相互作用によるサイトブロッキングの効果と比べた場合、活性化エネルギー低下による効果の方が優勢で、全体として炭素原子の拡散係数を増加させる作用があることを示した。このように、本年度の研究により、水素プラズマ照射で表面下に打ち込まれた水素原子が格子欠陥の移動に与える影響を理論的に評価することが可能となった。
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