核融合や高エネルギー分野では、中性子被ばく環境でNb3Sn線材を用いた超伝導磁石を使用する計画である。そのような環境での超伝導特性の変化を検討するため、Nb3Sn線材を原子炉照射し、その後放射線管理施設内に設置した15.5T超伝導磁石を用いて照射した超伝導線材の臨界温度、臨界電流の変化を検討した。 原子炉で0.1MeV以上の中性子を1.0E+22 n/m2照射した場合、9Kから14Kの範囲で、臨界磁場が上昇した。臨界磁場と温度の関係は、照射した場合の方が負の傾きが大きく、そのまま線形に4Kでの臨界磁場を外挿すると照射によって臨界磁場が上昇することになる。14MeV中性子を2.65E+21 n/m2照射した試料では、4.5Kでの臨界電流は13Tから24Tの範囲で増加している。SQUIDによる磁化特性の変化からも中性子照射によって臨界電流が増加していることがうかがわれる。 これらの実験事実から、中性子照射による超伝導特性は次のような機構によって変化するものと考えられる。ある一定の照射量までは、中性子照射によって照射欠陥が金属組織内に導入され、その照射欠陥が磁束のピン止め力を増加させ臨界電流が増加する。この照射欠陥は臨界磁場をも増加させる。しかし、照射量が多くなるとA15型結晶の破壊が進行し、超伝導特性を次第に失って行くものと推察される。 これまでになされている研究には系統性が少なく、試料や照射条件、評価手法などが統一されていない。従って、定量的な評価はかなり難しい状況にあり、定量的評価に向けた研究が進展することが期待される。
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