研究課題/領域番号 |
22560834
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研究機関 | 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構 |
研究代表者 |
佐々木 慎一 大学共同利用機関法人高エネルギー加速器研究機構, 放射線科学センター, 教授 (80178649)
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キーワード | W値 / 電離効率 / 宇宙放射線計測 / 重荷電粒子 / 粒子線治療 / エネルギー依存 / 放射線検出器 / 線量計測 |
研究概要 |
放射線に対する物質の電離効率を表すW値は、放射線によって発生した電荷量と物質に吸収されたエネルギーとを直接結びつける放射線物理学や放射線計測における基礎物理量である。特に、重荷電粒子に対するW値は、粒子線医学、放射線生物学、宇宙放射線計測、宇宙放射線防護等の新たな分野で吸収エネルギーを求めるための重要な実用量でもある。しかしながら、その重荷電粒子に対する実験データは極めて少ない現状にあり、粒子線治療や宇宙線量測定における曖昧さの要素の一つになっている。本研究では、これらの分野でよく参照される10~200MeV/nの高エネルギー重荷電粒子に対するW値を基本的放射線検出媒体である希ガス、空気、組織等価ガスにおいて測定し、そのデータの蓄積・提供を行い、エネルギーや粒子種並びに試料気体圧力への依存性についての検討を行っている。昨年度後半から今年度にかけて、100MeV/n以上の高エネルギー粒子、並びに高圧試料気体に対する測定を可能とするように実験装置の大型化と改良を実施した。これと同時に粒子エネルギー決定精度の向上に取り組み、50μm厚入射窓の導入や飛行時間分析型(TOF)エネルギー測定装置の大幅改良を行い、時間分解能22ピコ秒を達成しうる手法を確立した。これらの結果は、SRIM並びにPHITS等の計算コードによる結果に、飛行時間で0~1.5%、エネルギーで0.3~3.3%の差違で一致することを確認した。今年度はHe^<2+>からFe^<26+>(100MeV/n)、Ar^<20+>(290MeV/n)に至る幾つかの重イオンに対してアルゴン、空気及び生体組織等価ガスにおける電離効率の測定を行った。試料気体の圧力は、2次電子の飛程を考え、0.2~0.5MPaの範囲に設定し圧力に関するW値の変化も調べた。これらの結果は、一部いくつかの報告としてまとめられ、国際会議(IEEE2011)において総合的報告がなされた。.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アルゴン、空気、組織等価ガスの3つの基本的な試料気体に対してW値測定の基本となる生成電荷量並びに粒子エネルギー測定を、HeからArに至る多種かつ広範なエネルギー範囲の重荷電粒子に対して行った。特に、今年度において粒子エネルギーの決定のための飛行時間測定法に改良を重ね、手法の確立が図られた。目的としているW値のエネルギー依存性の有無や特性について、基本的特質を掌握できつつある。
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今後の研究の推進方策 |
これまでの研究によって、本研究に必要な装置並びに実験手法については確立されたと言ってよい。現在は100MeV/n以上の粒子に対する測定を中心に行っているが、もう一度1~6MeV/nのエネルギーの粒子に対してこの手法を用いた再測定が必要と考えている。
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