エネルギー有効利用の観点から、物質の相変化を利用して高密度かつ高有効熱エネルギー効率で蓄熱可能な技術の重要性が高まっている。相変化蓄熱材の過冷却度を能動的に制御できれば、貯蔵された熱の抽出が需要に応じて可能な高効率蓄熱・熱利用システムを実現することができる。そこで、相変化蓄熱材候補物質の固液臨界半径を推定した。 蓄熱材候補の有機化合物としてポリエチレングリコール(融点57.1℃)、D-スレイトール(融点87.0℃)を選定し、温度、固液平衡温度、凝固開始温度、粘性係数、融解熱、過冷却度、密度、固液界面自由エネルギーなどから、均一核生成理論による固液臨界半径を推定した。各物質の密度、固液平衡温度、凝固開始温度、融解熱は、密度計や示差走査熱量計等で測定した。融液の粘性係数は回転粘度計で測定した。また、固液界面自由エネルギーはTurnbullによる均一核生成頻度式から推定した。その結果、最大過冷却度から過冷却度1Kまでの臨界核半径は、ポリエチレングリコールが40nm~450nm程度、D-トスレイトールが1nm~120nm程度になるものと推定された。過冷却度5Kにおける臨界核半径は、ポリエチレングリコールが90nm程度、D-スレイトールが20nm程度と推定され、発核制御には10nm~100nm程度のサイズにおける凝固特性に注目すればよいことがわかった。 高分子量のポリエチレングリコールや糖アルコールは給湯・暖房温度に適した安全な相変化蓄熱材として有望視されている。本研究結果は、カプセル型蓄熱材の最大過冷却度をナノオーダーの分子クラスタの発核によって制御できる可能性を示しており、相変化蓄熱材の過冷却制御、最適設計に有用な知見となる。
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