エネルギー有効利用の観点から、物質の相変化を利用して高密度かつ高有効熱エネルギー効率で蓄熱可能な技術の重要性が高まっている。相変化蓄熱材の過冷却度を能動的に制御できれば、貯蔵された熱の抽出が需要に応じて可能な高効率蓄熱・熱利用システムを実現することができる。そこで、微細構造を持つ材料の介在が相変化蓄熱材候補物質の最大過冷却度に及ぼす影響を調べる実験を行った。また、相変化蓄熱材を機能的に利用するための設計データとして、高融点の相変化蓄熱材候補物質の物性の温度依存性を調べる実験を行った。 蓄熱材候補物質には、無機化合物として燐酸水素二ナトリウム十二水和物(融点36℃)を、また有機化合物としてスレイトール(融点87℃)を使用した。ナノオーダーの微細孔を持つ材料、微細な切り欠き様の構造を持つ材料を蓄熱材候補物質中に添加し、融液を一定速で冷却する際の蓄熱材の凝固開始温度の変化や、超音波振動の付与による発核挙動を調べた。その結果、微細な孔を持つ材料での発核促進効果は確認できなかった。また、超音波振動の付与により、最大過冷却度が数℃程度は小さくなることを確認できた。ただし、超音波振動の付与効果は、添加材自身あるいは添加材と試験容器との間の摺動による影響も考えられ、より詳細な実験、検討が今後必要である。また、過冷却状態を含むスレイトールの密度、比熱、熱伝導率の温度依存性を、密度計、示差走査熱量計、熱伝導率測定装置で調べた。測定の結果、粘性係数の温度依存性が他の物性に比べて強く、対流熱伝達への影響も大きいことを明らかにした。 糖アルコールは給湯・暖房温度に適した安全な相変化蓄熱材として有望視されている。本研究結果は、効果がまだ限定的ではあるものの、カプセル型蓄熱材の最大過冷却度を能動的に制御できる可能性を示しており、相変化蓄熱材の過冷却制御、最適設計に有用な知見となる。
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