研究概要 |
Rcs二成分制御系は,細胞質膜(内膜)のヒスチジンキナーゼRcsCから細胞質のレスポンスレギュレーターRcsBへのリン酸転移を,内膜のホスフォトランスミッターRcsDが仲介するリン酸リレーシグナル伝達系で,環境から細胞表層に加わるストレスに応答して活性化する.活性化には外膜リポタンパク質RcsFが必須で,この外膜タンパク質が環境ストレスを感知し,内膜貫通タンパク質であるRcsC・Dに情報を伝達すると考えられる.RcsFのN末端近くにはプロリン残基を多く含む領域(PRR[proline-rich region])がある.PRR欠失によって,内膜局在型やペリプラズム遊離型に改変した大腸菌RcsFではRcs系活性化レベルが上昇し,本来の外膜局在RcsFでは低下することから,活性制御ドメインをなすと考えられる.ペリプラズム遊離型のRcsFのPRR内の部分欠失・プロリン残基のアラニンへの置換,さらにPRRのもうひとつの特徴である多くの塩基性残基を中性・酸性残基に置換するなどの実験によって,プロリンと塩基性残基がともにRcs系活性制御に重要な働きをしていることを示唆する結果を得た.一方,RcsFのC末端部分の欠失実験から,C末端付近にRcsC・Dと相互作用して情報を伝達するドメインがあると考えている.現在,RcsFとRcsC・Dとの相互作用を検出するための実験系の構築を進めている.FcsFの構造と機能との相関について理解を進めることは,細菌の環境ストレス応答機構の分子レベルの検討に寄与するだけでなく,腸内細菌の病原性やバイオフィルム形成へのRcs系の関与が知られていることから,将来的には細菌感染への対策にもつながりうると考えている.
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