複製開始部位特異的結合という他の系のDNA複製開始蛋白質と共通の活性のほかに、「複製開始部位特異的プライマーRNA合成活性を合わせ持つ」という他の系にない特異な性質をもつColE2群プラスミドの複製開始蛋白質 Rep(約35kD)と複製開始部位Ori(約35bp)の機能と構造を遺伝学的、生化学的に明らかにするとともに、構造生物学的解析へ結び付けることを目的として研究を行った。 1 ColE2プラスミドのRepのプライマー合成活性中心の内、基質ヌクレオチド結合に関与する可能性のあるアミノ酸残基の候補の絞り込みのため、全ての酸性アミノ酸残基とヒスチジンについて、酸性アミノ酸については他の酸性アミノ酸残基およびアラニンと、またヒスチジンについてはアラニンと置換した一アミノ酸置換変異体を作成した。3残基の必須アスパラギン酸と2残基のヒスチジンを候補として絞り込んだ。また、3残基の必須の酸性アミノ酸(アスパラギン酸、グルタミン酸の何れでも可)を同定した。 2 Oriの一塩基置換変異体の内、Repをトランスに供給したときにin vivo複製活性が消失したが、in vitro複製開始活性を保持していたものについて、Repがシスに供給される自立複製型構造(元々のプラスミドの構造)をもち、ベクター配列を含まないものを作成し、これら全てのOri変異体について複製活性が消失していることを再確認できた。 3 共同研究としてRepのX線結晶構造解析を試みている国立遺伝学研究所助教伊藤啓氏は、RepのC末端側118アミノ酸に相当するペプチドとOri の配列の一部を含むoligo DNAとの共結晶を得て、構造解析に成功した。得られた構造モデルはこれまでの遺伝学的、生化学的解析からの推定をほぼ裏付けるものであった。
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