研究概要 |
我々は、核マトリックスがゲノムの種々の機能を支える基盤として遺伝子の発現、特に生命現象の機能発現においてエピジェネティクな調節領域ではないかとの仮説を立証するため研究計画を立案した。本年度は、P-糖蛋白質遺伝子に配置されたプロモーター領域のエピジェネティク解析とこれら領域と相互作用する因子群の同定を行った。同時に、ゲノムの安定化に関わるmatrix attachment region(MAR)領域との相互作用にも注目した。 1.P-糖蛋白質遺伝子(mdr1b)のプロモーター領域について、転写に関るトランス作動性因子群との相互作用をクロマチン免疫沈降法(ChIPアッセイ)により評価した。 2.P-糖タンパク質の発現刺激に酸化ストレスが有効であることから、細胞を過酸化水素処理して経時的にプロモーター領域の立体構造と修飾状態を調査すると同時に次の因子との相互作用を解析した(matrin3, SMRT1,MeCP2, TopoisomeraseII, hnRNP)。その結果、転写のオン/オフには、特定のトランス作動性因子との間に明瞭な使い分けが認められた。 3.我々が単離同定した核マトリックス蛋白質matrin 3とプロモーター領域とのトランス作動性因子群を介した相互作用を昨年度から継続して解析しており、今年度は、特にプロモーター領域とエピジェネティックな制御下で相互作用するMARの情報を得た。さらに、上記した因子に加えてアセチル化およびメチル化ヒストンとの相互作用も含めて解析して、MARとプロモーター領域との相互作用に関する重要な情報を蓄積することができた。 3年間の計画で、ゲノムの安定化に関わる領域のエピジェネティクな制御について、特にP-糖蛋白質遺伝子を例にして詳細な情報が得られた。
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