最終年度であるため前年に引き続き以下の2項目についての追試実験を行い、以下の結果が得られた。 (1) ヤドリウメマツアリ女王のホストコロニーへの人為的導入実験を継続して行った。昨年までの研究では、1)N数が少ない、2)飼育期間が短いと寄生種の羽化が十分確認できない、の2点の問題があったため、これらの点を留意して追試実験を行い、主に以下の3つの結果を得た。1)ウメマツアリ短翅型女王コロニーは導入成功率は高いものの、羽化率は個体群で差があり、抵抗性を備えている集団の存在が示唆された。2)長翅型女王コロニーでは導入成功率が非常に低い個体群があった。3)長翅型女王コロニーでも導入に成功した場合、寄生種の羽化が低頻度であるが観察された。 (2) ヤドリウメマツアリのブルードの化学擬態について実験と観察を行った。寄生コロニーを飼育し、ヤドリウメマツアリとそのホストであるウメマツアリのブルード(卵、幼虫、蛹)の体表の炭化水素成分組成をGC分析によって比較した。昨年まではサンプル数がまだ少なかったので、本年は追加のサンプルを分析した。その結果、寄生種とホストの幼虫や蛹では組成に大きな差はみられなかった。しかし、それら組成はホストのワーカーの組成と類似していたため、養育中にワーカーからその成分が付着した可能性が高い。また卵にはそれ特有の炭化水素組成が共通してみられたのみであった。 これらの結果から、長翅型、短翅型いずれについても寄生に対する抵抗的性質を備えた個体群がいることが示唆された。長翅型では寄生女王の侵入自体を拒む特徴を持っており、侵入された場合にもその繁殖を妨害し、寄生個体の羽化を抑えていると思われる。しかし、ホストによる卵、幼虫、蛹の化学的識別は困難であると予測されるため、繁殖の妨害は恐らく、卵食行動のような寄生女王の産卵の段階で行われていると考えられる。
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