研究概要 |
本研究は送粉者の出現季節や訪花植物に対する選択性と植物群集の開花フェノロジーの関係を解明するものである。送粉者として機能する昆虫類は幅広い分類群に渡るが、ハナバチ類は特に重要な送粉者と考えられる。本年度は石川県加賀地方の標高の異なる5地点に調査サイトを設定し、ハナバチ類の種組成と開花植物相の標高傾度に沿った変化について調査した。 高山帯では低温や強風などの厳しい環境に適応したマルハナバチ類が重要な送粉者と予測されるが、高山帯のみを生息場所とするマルハナバチはおらず、最優占種であったヒメマルハナバチでさえ高山帯から標高800m付近の樹林帯にかけて広く分布していた。しかし、ヒメマルハナバチは高山帯から地理的に離れた標高1,000m前後の山地帯には分布しなかったことから、高山帯で活動していたマルハナバチ類は花資源の季節的な状況変化に応じて高山帯から亜高山、さらに標高の低い樹林帯まで広く移動しながら採餌活動している可能性が示された。 上記のようなマルハナバチ類の広域的な季節移動は、単位面積×時間当たりのエネルギー獲得量がある一定値を下まわるとマルハナバチ個体群がそのエリアから立ち去ることに起因すると考えられ、高山植物群集における開花シーズンを通した送粉ネットワークの維持にはマルハナバチ以外のハナバチ類、さらにはハナアブ等による送粉が必要であることが示された。本年度の調査によって、コハナバチ科やヒメハナバチ科、コシブトハナバチ科といった比較的小型のハナバチ類には高山帯を中心に分布する種が数種存在し、高山植物の中にはこれらのハナバチ類による送粉が欠かせないものが含まれる可能性が示唆された。高山帯から低地までカバーした広いエリアについて、ハナバチ類だけでなく双翅目昆虫などを含めた幅広い分類群の昆虫類の訪花頻度の季節変化と開花フェノロジーの関係を解明することが今後の課題である。
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