研究課題/領域番号 |
22570015
|
研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
市野 隆雄 信州大学, 理学部, 教授 (20176291)
|
キーワード | 共進化 / 共生 / 種特異性 / アリ / アブラムシ / 選択的捕食 / 化学擬態 / 体表炭化水素 |
研究概要 |
1.ヤノクチナガオオアブラムシの体表面炭化水素(CHC)の中には、随伴アリとの接触により付着したアリのCHCが含まれていることがすでに我々の研究で明らかになっていた。しかし、アブラムシのCHCがアリのCHCに類似しているのは、このようなアリ由来CHCだけの効果によるものなのか、それともアブラムシ自身もアリに似たCHCを自ら生合成して分泌しているのかは明らかではなかった。そこで、今年度はアリ由来のCHCを付着させていないアブラムシを作出することで、この点について実験的に検討した。 2.クロクサアリのコロニーから採集した各齢期のヤノクチナガオオアブラムシをアリ非随伴の条件下で飼育した。その後、新たに脱皮した、または出生したアブラムシ(これらの体表にはアリ由来物質が付着していない)のCHCを抽出・分析し、アリのCHCと比較した。その結果、アブラムシのCHC組成は、3齢以上の個体ではアリのCHCとよく似ていた。一方、1,2齢幼虫ではCHC組成がアリとは異なっていた。 3.アブラムシ体表に人為的にn-ドコサン(炭化水素の一種)を塗布し、その後脱皮した個体のCHCを分析した結果から、アブラムシが脱皮することで、体表に付着していた炭化水素が脱皮殻と共に脱ぎ捨てられることを確認した。 4.以上の結果は、3齢以上のヤノクチナガオオアブラムシがクロクサアリに似た組成のCHCを自ら生合成して化学擬態していることを強く示唆するものである。この結果を学術誌に発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アリのCHCが体表面に付着しているアブラムシが捕食されにくいという発見に加え、アブラムシがアリに似せたCHCを自ら生合成して分泌していることが今年度明らかになった。これはアリの選択的捕食の結果、アブラムシ側に対抗的な適応が進化したことを示唆しており、今後の研究の進展に大きく寄与する発見である。このように化学分析、バイオアッセイの実験はおおむね順調に進展している。
|
今後の研究の推進方策 |
これまでの研究で、アブラムシがアリに似せたCHCを自ら生合成して分泌していることが明らかになった。このことから、アブラムシは随伴するアリ種に応じて化学擬態しており、遺伝的分化をしている可能性が示唆される。今後、異なるアリ種に随伴されているヤノクチナガオオアブラムシについてCHCの比較をおこない、アリ種ごとへの特異的な化学擬態が起こっているかどうかの検証、および随伴アリ種ごとにアブラムシ側の遺伝分化がおこっているかどうかの検証をおこなう。さらに、ヤノクチナガオオアブラムシは複数種の寄主植物を利用しているため、植物に対するホストレースが存在するかについても遺伝子解析により検討をおこなう。なお、アブラムシの分泌甘露量の測定が技術的に難航しているため、アリによる選択的捕食との関連を探る計画を変更して上記のものとする。
|