研究課題/領域番号 |
22570016
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研究機関 | 岐阜大学 |
研究代表者 |
津田 智 岐阜大学, 流域圏科学研究センター, 准教授 (50212056)
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研究期間 (年度) |
2010-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 生態学 / 環境 / 植生 / 自然再生 / 生物多様性 |
研究概要 |
全国の野焼き(山焼き,ヨシ焼きを含む)は,たいてい毎年2月から5月の春季に実施されるが,2011年3月に発生した東日本大震災の影響により,2011,2012年は多くの地域で野焼きが中止された.そのため,野焼き時の燃料調査や温度測定については計画通りに進まなかったが,植物群落に関する調査などは多少の変更があったものの予定通りのデータ採取が実施できた.なお,2013年には渡良瀬遊水地をはじめ,中止されていた野焼きの多くが再開された. 平成24年度の本研究課題の調査では,霧ヶ峰(長野県諏訪市),寒風山(秋田県男鹿市),小清水原生花園(北海道小清水町)などの野焼き地においてデータ採取が実施できた.火入れ後の植生変化を明らかにするための植生調査については火入れが実施できなかった地域が多いために,必ずしも十分なデータが採取できなかったが,寒風山や小清水原生花園などでは生物多様性を議論するために不可欠なフロラ調査(標本採集)などを進めることができた. また,種子の温度反応性(高温による発芽)を調べるための種子採取を実施した.小清水原生花園で2012年秋にヒロハクサフジ(マメ科)の種子を約2000粒採取したが,発芽実験は野生状態のフェノロジーに合わせて2013年春におこなう予定である. 炭素循環研究については,野焼き地での測定ができなかったので,半自然草原再生実験地三ツ石サイト(長野県軽井沢町)で,毎年刈り払い区と風倒整理伐後4年間放置区との比較調査を実施した. 今年度に関しては印刷物としての成果は公表できなかったが,10月の植生学会(松戸大会)で「軽井沢三ツ石地区における風倒跡地の草原再生実験」というタイトルで半自然草原の再生について発表した.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野焼き(山焼き,ヨシ焼き)時の温度環境などのデータは野焼きが中止されることが多かったため,予定していた場所でのデータ採取はできない場合もあった.しかしながら,本研究採択時にはもともと予定していなかった場所でのデータ採取が何カ所かでおこなえたため,温度環境については不足分を補えている. 植物群落へ与える影響を解析するための植生調査データは予定通りに採取できており,それに加えてフロラリスト用の標本も採取できている. 炭素循環研究については,野焼きの中止にともなって,予定通りの測定ができなかったものの,カラマツ林風倒後の半自然草原再生実験地で土壌呼吸速度,地温変化,土壌水分量変化などの測定をおこなっている. 温度環境変化に対する種子の反応を調べるための発芽実験を予定していたが,実験用種子の確保が終わり,平成23年度に本研究課題で購入したインキュベータを使っての発芽実験が実施できる環境が整った.
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今後の研究の推進方策 |
2011年3月の東日本大震災の影響により野焼きの多くが中止されていたこともあり,本研究課題採択時に予定していた調査地だけではデータ採取が十分におこなえない状況になっていたため,調査地を予定外の他所に求めざるをえなかった.それらの調査地で研究を開始するにあたっては地元の協力なしには進まないため,地元(自治体・住民・NPOなど)との調整が相当時間かかり,研究の速やかな遂行には多少の負担になった.また,これまで継続して調査を実施してきた場所での調査も同時進行していたため,論文などのアウトプットが十分におこなえなかった.今後はこれまで採取できているデータを解析し,半自然草原の野焼きによる生態系への影響を明らかにしていく作業が必要と考えている. 最近は生物多様性の確保に向けて半自然草原の再生を目指す地域が急激に増えている.しかしながら,そこには科学的な裏付けや根拠がないのみならず,経験も欠落した状態で野焼き実施に踏み切る場合も数多く見受けられる.その点を鑑み,論文等の科学的成果を出すだけでなく,一般向けに説明できる図書の出版や,講演の実施も積極的に取り組みたいと考えている.できる環境が整っている(H25年度に実験予定).
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