研究概要 |
昨年度に引き続き,単純な食物網を使って,除去されると多くの2次的絶滅を引き起こすような重要な種を定量的に特定する方法を開発することを目指した.特に今年度は,Pimm(1979,1980)の動的アプローチと,Jordan et al.(1999)の静的アプローチの類似点と相違点を明確にすることを試みた.ある構造をもつ食物網に対して直感的に予想される結果は,全く異なっているこの2つのアプローチからも理論的な解釈にもとづいて予想される場合があるはずである.食物網の構造が単純であればその傾向は強いだろう.そこで,まず,もっとも単純な食物網によって,両者が全く同じ結果を与えるようなパラメータ範囲を明確にする.次に,徐々に複雑な食物網を構成し,それらに対して同様のアプローチを適用することによって,両者の同一性の程度が明らかになるのではないかと考えた.このとき,食物網構造の複雑さを表す定量的な指標が必要であり,その指標と両者のアプローチの同一性の程度の間に相関関係を示すことができればわかりやすい.逆に,前者(あるいは後者)のモデルで現れる2次的絶滅が,後者(あるいは前者)では決して現れない条件はどのようなものであるかを明らかにしようとした.さらに,直感的には説明できない結果は,これらのモデルに基づいてどのように解釈することができるのかを示そうとした.しかし,これらの解析は予想していたような単純な結果としてまとめることができなかったために,来年度以降もこれを継続した研究が必要である.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の目的である「複雑なネットワークにおいて,重要な位置を占めている種を定量的に特定するための手法を開発する」ことに向けて,これまでの静的なアプローチと動的なアプローチを統合するという,新しい試みをおこなっている.しかし,具体的な食物網を用いて,これまでの研究を統合して重要な種を特定するための方法を開発するまでにはいたっていないため.
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今後の研究の推進方策 |
「研究実績の概要」の項目で記載した内容について,継続して,目標の課題に取り組んでいく予定である.すなわち,(1)静的アプローチと動的アプローチの両者が全く同じ結果を与えるようなパラメータ範囲を明確にしたり同性の程度を明らかにすること.(2)食物網構造の複雑さを表す定量的な指標として,種間結合度に替わる,今回の目的に合うような新しい指標を開発すること.(3)前者(あるいは後者)のモデルで現れる2次的絶滅が,後者(あるいは前者)では決して現れない条件はどのようなものであるかを明らかにすること.このとき,動的アプローチでは,全く他の動的モデルを組み入れることも検討していきたい.
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