研究課題/領域番号 |
22570018
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
河村 功一 三重大学, 大学院・生物資源学研究科, 准教授 (80372035)
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研究分担者 |
片野 修 独立行政法人水産総合研究センター, 内水面研究部, 研究室長 (60211843)
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キーワード | 移入種 / コイ科魚類 / 遺伝的多様性 / 栄養カスケード / 定着成功 / 環境適応 / コアユ / 自然選択 |
研究概要 |
移入種(オイカワ)の定着成功要因を探るため、昨年度のmtDNAの分析結果において移入集団の中で遺伝的多様性の高い集団と低い集団にこれらの起源とされる琵琶湖集団を加え、遺伝的特徴と形態的特徴について調査分析を行った。遺伝的特徴に着いてみると、マイクロサテライトDNA(MS)情報を用いた主成分分析において、遺伝的多様性の低い集団は何れも高い集団より遺伝的分化が進んでいるものの、遺伝的分化の方向は集団間で異なる事が判った。また、MSのアリル組成から、集団間で程度に違いはみられるものの何れの移入集団もボトルネックを経験しているだけでなく、侵入年代が比較的最近であることが示唆された。計数形質を用いたFA(左右性の揺らぎの程度)の調査においては、幾つかの形質においてFAの大きさとMSの遺伝的多様性の間に有意な負の相関が認められ、特に〓耙数においてFAが顕著であることが判った。しかしながら、〓耙数の値は琵琶湖集団を含めて集団間で大きく異なったものの、FAならびにMSの遺伝的多様性との間に相関が見られなかった事から、食性と関係した摂餌適応の可能性が考えられる。 中部・東北地方の移入集団において、オイカワはアユ、ウグイ、アブラハヤ等の他魚種と共存していた。このうち、浮き魚全体の中でオイカワの個体数が占める割合を目的変数、他魚種のうち4地点以上でオイカワと共存していたアユ、ウグイ、アブラハヤ、ニゴイ、カワムツがそれぞれ占める割合を説明変数として重回帰解析を行ったところ、アユ、アブラハヤ、ニゴイの順に強い負の影響をもつことが明らかになった。オイカワが浮き魚の中で占める割合は、電気ショッカー調査による1持間あたりの採捕数と正の相関を示したことから、移入集団においてアユやアブラハヤが少ないほどオイカワは繁栄すると考えられる。カワムツについては、移入して間もないため、今回の解析ではオイカワとの関係が明確でなかったと推測される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
モルフォメトリーを用いた形態解析は標本のコンディション等の都合により実施出来なかったが、他の解析(遺伝解析、計数形質を用いた形態解析、食性解析)については、ほぼ当初の計画通り、実施することが出来た。移入先のオイカワの個体数について、他魚種との関係を解析したところ、特定の他魚種が強く影響することが明らかになり、定着成功要因として抽出された。生態解析においても、計画通り進捗している。
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今後の研究の推進方策 |
移入集団の定着成功のキーとなる要因の解明に向け、次年度はmtDNA、マイクロサテライトの様な中立遺伝子だけでなく、適応に関係した機能的遺伝子についても分析を行い、移入種の定着に果たす遺伝的要因を明らかにする。また、モルフォメトリー解析により、局所適応に伴う体型変化と環境のちがいの関係について調べる。移入先の定着成功については、分布範囲や食性解析による他魚種との関係について解析する。
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