研究概要 |
近年,火事が頻発する広島県江田島市の鹿川水源地と上池を対象として,それらの堆積物の^<210>Pb,^<137>Cs法による年代測定,微粒炭分析および花粉分析を行うとともに,史実統計資料などから近年の林野火災と植生景観を調べ,微粒炭・花粉沈積量の変勲と火事レジーム・植生景観の変遷を比較することで,過去の火事レジーム・植生の指標としての微粒炭・花粉が,堆積物中でどのように堆積しているかを検討した. 過去約30年間に江田島で発生した焼損面積1ha以上の林野火災は15件で,それらの多くは江田島の北部と南部で発生した.最も大規模な林野火災は1978年に江田島北部の古鷹山で発生し,その焼損面積は1,005haで,火災持続時間は44時間であった.それ以外の林野火災の規模は相対的に小さく,大部分の焼損面積は50ha未満であった. 年代測定の結果,鹿川水源地の堆積物は1940年代以降に,上池のそれは1970年代以降に堆積したと判断された.大微粒炭沈積量は,鹿川水源地では堆積物の最下部と中部に,上池では最下部と最上部にピークを形成していた.年代測定結果から判断すると,鹿川水源地の堆積物の中部と上池の最下部のピークは,古鷹山の大規模火災を反映していると推定される.それ以外の林野火災に対比される明瞭なピークは認められなかった.鹿川水源地の堆積物最下部のピークは第二次世界大戦終末に対比され,広島原爆投下あるいは江田島付近の空襲に伴う火災に起因する可能性がある. 花粉分析の結果,鹿川水源地ではマツ属複維管東亜属・アカメガシワ属→コナラ属アカガシ亜属・コナラ亜属,上池ではマツ属複維管東亜属→スギ属という組成的変化が認められた.これらの花粉組成の変化は,空中写真判読から推定された集水域とその周辺における植生景観の変化と対比でき,鹿川水源地ではその集水域でのアカマツ林からコナラ・アラカシ林への自動遷移を,上池周辺ではスギ人工林の造成を反映していると考えられる.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
試料採取地の選定,史実資料などの収集,^<210>Pb,^<137>Cs同位体分析に基づく堆積物の年代制御にやや困難を伴ったが,研究そのものは実施計画に沿って概ね順調に進展している.
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今後の研究の推進方策 |
研究目的を達成すべく,当初の研究計画を基本としつつ,変更が必要な箇所については以下の対策のもとに研究を遂行する: 1)当初,呉市倉橋町を調査地としていたが,研究に適した試料採取地がより多く分布し,史実資料などが多く散逸の少ない,江田島市を主な調査地として硬究を推進する. 2)試料採取地の基本セッティングは,1)ため池の大きさと2)林野火災の攪乱地縁辺からの距離の組み合わせとしていたが,地点数の確保が難しかったため,2)を重視し堆積物試料の分析とデータ解析を進める. 3)広島原爆投下に伴う^<137>Csの降下と調査地の堆積盆への流入の可能性について検討する.
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