近年,火事が頻発する広島県江田島市において,水源地やため池の堆積物のPb-210,Cs-137法による年代測定,微粒炭分析および花粉分析を行うとともに,史実資料,空中写真などから近年の林野火災と植生景観を調べた.微粒炭・花粉量の変動と火事レジーム・植生景観の変遷を比較から,過去の火事レジーム・植生の指標としての微粒炭・花粉が,堆積物中でどのように記録されているかを検討した.主な研究成果は以下の通りである. 大,中規模の林野火災は概ね,焼損地およびその周辺の堆積盆において,大微粒炭シグナルとして記録されていた.他方,小規模の林野火災は必ずしも記録されていなかった.火災の持続時間と火災時の卓越風の風向が大微粒炭の堆積様式に重要な影響を及ぼしていた.小微粒炭はどの堆積盆でも類似した堆積様式を持ち,調査地全体の総和的な火事史を表していると推定された. 林野火災を契機とする植生変化は,集水域が焼損した堆積盆において,花粉シグナルとして記録されていた.それ以外の堆積盆では,焼損地の近隣に位置する場合でも,林野火災に起因する植生変化と花粉の堆積様式の対応は認めがたかった.林野火災がほとんど発生していない地域で,堆積盆のサイズによる花粉の堆積様式に違いに着目すると,大きな堆積盆では集水域およびその周辺の景観全体がある要素から別の要素に置き換わるような植生変化(戦後の土地利用の変化に伴う自動遷移)が記録されていた.他方,相対値で示される花粉データの場合,小規模の堆積盆ではごく近燐で生じた特定の景観要素の変化(人工林の造成)が過大に表現され,他の景観要素の変化が歪められていた. 堆積物の微粒炭と花粉の記録から,過去の火事レジームや火事攪乱による植生変化を明らかにするには,微粒炭・花粉の堆積様式の違いを考慮した,調査地の合目的的な選定や微粒炭・花粉データの定量的解釈が重要である.
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