研究概要 |
保育への投資をめぐる親子間の利害対立は、行動生態学の研究の中心課題の1つである。しかし理論研究や実証研究の重要な仮定である、親の保育形質と子のベギング形質の遺伝変異についての情報は、まだほとんど得られていない。本研究では,亜社会性を持つフタボシツチカメムシの野外個体群の選抜系統によって,親の投資形質と子のベギング形質の遺伝変異を確認し,各形質の遺伝率を推定し,両者の遺伝相関の存在を証明することを目的とした。今年度は、実験室で飼育している個体群について、艀化後栄養卵量の正負両方向への選抜を繰り返し、(1)選抜によって孵化後栄養卵量が変化するかを調べ、(2)実現遺伝率の推定を試みた。しかし、残念ながら、選抜による孵化後栄養卵量の有意な変化は検出できなかった。その理由として、実験室個体群は2008年に野外より採集してきたものであり、2年間の室内飼育の間に遺伝的な変異が縮小していた可能性がある。よって今後は、野外個体群からさらに大きな標本個体を補充し、十分な潜在的遺伝変異を確保した上で、選抜実験を再度やり直す必要があると考えられる。本実験の過程で、孵化後栄養卵量の推定に対して、雌親の体重変化を用いた回帰式による推定が有効な方法であることを見つけた。また、量的遺伝学のパラメーターである遺伝率や遺伝分散共分散行列を推定・検定する統計的方法についても検討し、その計算統計学的な方法を含めた教科書を翻訳書として出版した。
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