研究概要 |
親が子の保育を行う動物では、保育投資の配分をめぐって親子間の利害対立が存在する。これは、子供への保育投資分配を親自身が決めるのではなく、子はベギングによって親の決定を操作する可能性を示唆する。対立的相互関係の中で、親の保育形質と子のベギング形質は一定の共適応を果たすと考えられるが、その進化の前提となる遺伝変異の情報はほとんどない。本研究は,亜社会性を持つフタボシツチカメムシの野外個体群の選抜系統によって,保育形質としての栄養卵数と子のベギング形質の遺伝変異を確認し,各形質の遺伝率を推定し,両者の遺伝相関を検出することを目的とした。今年度は、実験室で飼育している個体群について、孵化後栄養卵量の正負両方向への選抜を繰り返し、(1)選抜によって孵化後栄養卵量の実現遺伝率の推定、(2)ベギング形質の定量化、(3)孵化後栄養卵量とベギング形質の遺伝相関の検出を試みた。しかし、残念ながら、選抜による各形質の平均値の有意な変化は検出できなかった。累代飼育を繰り返してきたため、室内個体群の中の遺伝的変異が縮小しているものと考えられる。これまで利用していた野外個体群が絶滅しているため、新しい野外個体群を見つけ、そこから個体を補充し、十分な潜在的遺伝変異を確保した上で、選抜実験を再度やり直す必要があると考えられる。本実験の過程で、表現型レベルでの様々な保育形質や幼虫の行動、およびそれらの相互作用の新たな発見が得られ、論文の発表に生かされた。
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