「クローナル植物では、ジェネットの空間配置により個体群のバイオマスや個体内での物質分配様式が大きく変化する」を仮説として提唱し、その仮説の実験生態学的な検討を行った。 地上茎と根からなるラメットと呼ばれる植物体が、地下茎や匍匐枝などの器官を介した栄養繁殖により複数連結する植物を総称してクローナル植物という。クローナル植物では、その構造から、隣り合わせに存在するラメットが同一の遺伝的なクローン(ジェネット)に属する場合もあれば、異なるジェネットに属する場合もある。 もし、隣り合わせに存在するラメットが同一のジェネットに属するのであれば、過度の競争はそのジェネットの適応度を低下させる。そのため、『協調的』な挙動が予測されうる。一方で、隣に存在するラメットが自分とは異なるジェネットに属するのであれば、『協調的』な振る舞いは、自身の適応度を下げる可能性がある。 本申請により明らかにするのは、以下の3つの予測である:1 クローナル植物の一部では、ジェネットの空間配置により、ジェネット間の競争様式が変化し、その結果、個体群全体のバイオマス(収量)と物質分配様式が変化する。2. 上記1の変化の傾向は、ラメット間の地下茎などによる物理的連結の有無によって影響を受けない。3. 上記1の傾向は、ジェネットが排他的に分布する形態の植物種で顕著であり、ジェネットが混在して存在する形態植物種では顕在化しない。以上を栽培実験により検討するため、スクリーニングを行い、ホソムギ、イタドリ、シロツメクサ、ギョウギシバ、カキドオシが実験の候補種として選定された。 ジェネットが混在するギョウギシバ、カキドオシでは、ジェネットの空間構造による物質分配様式の変化は検出できなかった。一方で、ジェネットが排他的に分布するイタドリでは、ジェネットの構造によって収量や物質分配様式が異なる傾向が認められた。
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