相利と捕食と競争などの複数の型の相互作用が関わることが生物群集の耕造と動態に及ぼす影響を明らかにすることを目的に研究を行った。 相利と捕食が関わる系として、植物と相利関係にある植食者と捕食者からなる系、相利と競争が関わる系として、植物と相利者と植食者からなる系の、Lotka-Volterra型の個体群動態モデルを考えた。相利のLotka-Volterra型モデルは、相利の効果が強すぎると個体群密度が発散するという欠点を持つが、逆に、発散を抑える要因を明確にできるという利点を持つ。これらのモデルでは、コストが大きすぎなければ、相利に捕食や競争の相互作用が加わるために、安定に3種が共存できる場合があることが明らかになった。また、二つのモデルを結合した系として、植物、相利者、植食者、捕食者からなる系を考え、群集耕造が複雑化することによって、相利の発散効果が抑えられる場合があることを明らかにした。これは、単に種数が増えるだけではなく、異なる種類の相互作用が組み合わさることが群集の安定性に及ぼす影響を明らかにした先駆的研究である。 植物間の競争と植食、捕食が関わる系として、うまい草とまずい草とシカとオオカミからなる系について、シカが年に1回しか繁殖しないことを考慮した離散力学系モデルを調べた。結果は連続力学系の場合とよく似ていて、うまい草とまずい草とシカの3種の動態は潜在的に不安定で、激しい個体数の振動を引き起こすが、オオカミの導入によってそれが抑えられた。しかし、離散力学系では、オオカミを除く3種系が不安定で個体群密度が振動する場合でも、オオカミの導入によって4種が安定に共存する場合があるなど、連続力学系には見られない振る舞いが現れた。世界各地で深刻な問題になっているシカの大発生の解決に有益な示唆を与える基礎研究である。
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