本研究の目的は,複数の型の相互作用を含む生物群集の構造と動態を調べることにより,主に食物網と競争的群集の研究によって培われてきた群集観がどのような変更を迫られるかを明らかにすることである。本年度は,研究実施計画にしたがって,以下の四つのテーマについて研究した。 1.II型の機能の反応を含む資源とギルド内被食者とギルド内捕食者の3種系では,環境の生産性が高くなると個体数の振動が起こる。一方,昨年度までの研究によって,ギルド内捕食者にとって資源の好適度が低い場合には,生産性が高くなってもギルド内被食者が絶滅しないことが明らかになっている。今年度は,振動解の分岐を詳細に調べることにより,前向きまたは後ろ向きのHopf分岐などが起こることにより,3種共存の平衡状態が不安定になっても安定な周期解が存在し,高生産環境でもギルド内被食者が絶滅しないことを明らかにした。 2.植物と花粉媒介者の相利系に植食者と捕食者を加えた系で,植食者や捕食者が相利系の発散を抑える際に個体数の振動が起こる場合があり,この振動が起こるために相利の利益とコストが満たすべき条件は,相利の効果が無いときの系の性質に依存することを明らかにした。 3.ウニとケルプとウニが食えないサンゴ藻の系では,磯焼けに対応する不毛な状態が長く続くが,これにラッコを加えると系が安定化し振動が抑えられる。さらに,ラッコの捕食者であるシャチを導入することにより,系が再び不安定化することを明らかにした。栄養段階の数により,栄養カスケードの効果が大きく変わることを示した先駆的な結果である。 4.植物は,機能的に等価な多くの葉を持ち,その一部が失われても個体の存続が可能なモジュール構造をしている。学外の研究者との共同研究で,食われる側のモジュール構造を考慮した捕食者-被食者動態モデルを構築し,既存の機能の反応のモデルとの関係を明らかにした。
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