熊本のUca lacteaにおいて、利き腕が同じ雄間と違う雄間の闘争を比較したところ、利き腕が違う場合に長引く傾向が認められた。特に、30分を越えるエスカレートした闘争は、利き腕が違う巣持ちの雄と放浪の雄にのみ見られた。さらに、本種を対象とした観察と実験から、雄は全行動時間の70%を、雌を誘引するシグナルと考えられるbackground waving(BW)に費やし、waving rateはサイズとともに、また放浪雌が増えると増加することが判明した。利き腕の違いがBWに影響するか否かまでは検討できなかったが、自分のdetectabilityを高めて雌を誘引するBWは、放浪雄をも誘引する可能性が高く、雄間闘争にも影響するだろう。次のステップの研究へと繋がる成果と考えられる。 左右性の形態的検討では、日本とタイの種類についてそれぞれ2個体群、オーストラリアの種類については1個体群を対象とした(検討個体数:455~1036)。解析の結果、“Uca lactea complex”の3種における左利き個体の割合は49.2~51.6%、“U. vocans complex”の3種では1.5~6.4%、変動は後者で有意(G検定;p < 0.0001)であることが明らかになった。日本の2種について鋏長/甲幅、鋏湿重/鋏長を測定したところ、“U. lactea complex”のU. peplexaではそれぞれ平均が1.64と0.016g/mm、“U. vocans complex”のU. vocansでは1.30と0.019g/mmとなり、前者の大型鋏脚は長く、軽い傾向への選択がかかっていると考えられた。 以上の成果は、甲殻類学会の2演題において発表するとともに、雄の社会行動に係るコストに関する論文を1報、左右性の維持機構に関する論文を2報、国際誌に公表した。
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