高等植物葉緑体のチオレドキシンは、葉緑体ストロマに局在し、光合成から得られる還元力の一部をフェレドキシン、フェレドキシン・チオレドキシン還元酵素を経由して、電子として受け取る。電子を受け取り、還元型となったチオレドキシンはカルビンサイクルを始めとして、ストロマに局在する各種酸化還元応答タンパク質を還元し、酵素活性の調節を行う。チオレドキシンファミリータンパク質は、これ以外のいくつかの経路に電子を渡すことも知られている。このように、葉緑体チオレドキシンファミリータンパク質は、標的タンパク質のジスルフィド結合を還元するという一見単純な活性で、A.標的タンパク質の酵素活性制御、B.活性酸素種消去、C.膜を超えた電子の受け渡し、など、葉緑体機能維持に関わる様々なレドックス制御経路へ電子を供給することができるのである。分子量約1万という小さなチオレドキシンタンパク質に、なぜこのようなことが可能なのかを明らかにするために、以下の研究を行った。 高等植物葉緑体ストロマに存在するチオレドキシンファミリーの機能分担を明らかにするため、まず、シロイヌナズナ葉緑体に局在すると考えられる5グループ、10種類のTrxタンパク質の特異的抗体を作成し、細胞内の各種チオレドキシンファミリータンパク質の定量を行った。その結果、グループ間で存在量の違いを明らかにすることができた。また、シロイヌナズナの葉緑体に局在するチオレドキシンファミリーのタンパク質機能を解析するため、シロイヌナズナのT-DNA挿入変異体の整備を進め、いくつかの変異体について、生理学的解析実験を行った。その結果、チオレドキシンファミリータンパク質は、グループごとに機能分担を行っているらしいことがわかってきた。
|