植物細胞がどのように位置を認識し、正しい場所に正しい器官を作っていくのかを調べるため、シロイヌナズナの花弁形成をモデルに遺伝子レベルでの研究を行った。花弁は、外側の層(whorl)に作られる萼片と萼片の間に位置するように形成される。シロイヌナズナで花弁が形成されないptl突然変異体とrbe突然変異体があり、両者の原因遺伝子はそれぞれ転写因子をコードしている。PETAL LOSS (PTL)遺伝子とRABBIT EARS (RBE) 遺伝子の産物を、それぞれ蛍光タンパク質で可視化する形質転換体を作り、蛍光観察したところ、PTLタンパク質は萼片間に、RBEタンパク質は花弁原基で発現しており、転写産物のある細胞と同じであることが示唆された。これらの形質転換体を交配し、PTLとRBEの発現を同時に観察すると、両者が発現する細胞はほとんど重ならず、萼片間領域と花弁原基領域は空間的に明確に区別される事が分かった。萼片間から花弁原基へ位置情報がどのように伝わるかを調べるため、PTLとグルココルチコイドレセプター(GR)との融合遺伝子を発現する形質転換体を作成した。RBEの発現を制御するシスエレメントを同定するため、GUSレポーターを用いたプロモーター解析を行い、遺伝子の上流約500 bp以内に花弁原基特異的な発現を誘導する配列があることが示唆された。rbeのエンハンサー・サプレッサー変異のスクリーニングを試みたが、胚珠発生に異常がある影響で変異源処理した植物からほとんど種子がとれず、候補変異体を得る事ができなかった。これは、遺伝子型がヘテロのものを多く作成し、変異源処理してスクリーニングすることで解消できると考えられる。
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