初発酵素 XDH のノックダウンから見出したプリン分解代謝の二元的な植物生理機能(通常条件下での持続的成長,ストレス条件下での環境適応)の実態とその制御機構の解明を目的に研究を進め,以下の結果を得た。 (1)プリン分解の破綻がストレス感受性を亢進する事実は,環境適応に関与するプリン分解物の存在を示唆する。種々のプリン分解物の中でもウレイド化合物(アラントイン,アラントイン酸)は,ストレスに応答して蓄積し,抗酸化能を備えることが報告されている。そこで,XDH の下流で働くアラントイン酸分解酵素 AAH のシロイヌナズナ遺伝子破壊株を解析したところ,AAH の欠損によりアラントイン酸のみならず,その前駆物質アラントインの濃度も上昇し,主要な2つのウレイドが蓄積していることが判明した。本変異株の実生では,パラコート処理や高浸透圧条件下において葉緑素含量やバイオマスの低下が抑えられ,これらのストレスに対して野生株よりも耐性であることが示された。この観察と関連して,当該変異株では環境応答・適応に関わる遺伝子群の発現が有意に変動していることがマイクロアレイ解析により明らかとなった。以上の結果から,ストレス適応におけるウレイド蓄積の重要性が示唆された。 (2)プリン代謝酵素遺伝子群の発現は,窒素リサイクルの活性化を伴う老化の進行時や,乾燥などのストレス遭遇時に活性化されることから,これらの生理現象の制御に密接に関わる転写因子がプリン分解系の転写制御に関わる可能性を検証した。候補選定した転写因子のシロイヌナズナ遺伝子破壊株におけるプリン分解系酵素遺伝子の転写産物レベルを調査した結果,老化の制御に関わる ORE1・ARF2 およびストレス応答の制御に関わる NAC19 の遺伝子破壊が一部のプリン分解酵素遺伝子の mRNA レベルを有意に変動させ,その発現に影響を与えることが示唆された。
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