研究課題/領域番号 |
22570044
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研究機関 | 山口大学 |
研究代表者 |
真野 純一 山口大学, 総合科学実験センター, 教授 (50243100)
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研究分担者 |
松井 健二 山口大学, 大学院・医学系研究科, 教授 (90199729)
田中 淨 鳥取大学, 農学部, 教授 (50124350)
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キーワード | 塩ストレス / タンパク質カルボニル化 / 葉緑体 |
研究概要 |
環境ストレス条件下で生成する活性アルデヒド(RAL)の作用機構解明をめざし,以下の成果を得た。(1)RALによるタンパク質修飾の塩ストレスによる増大。塩ストレスを与えたシロイヌナズナの葉において,細胞障害(クロロフィル蛍光のFv/Fm値低下)が生じる以前にタンパク質のRAL修飾が増大することをアクロレイン,クロトンアルデヒド,4-ヒドロキシノネナール(HNE)などの特異抗体を用いた免疫学的検出から明らかにした。すなわちタンパク質のRAL修飾はストレスの初期イベントであった。(2)RALにより修飾されるタンパク質を抗体カラムまたはカルボニル修飾試薬/アフィニティカラムで精製し,プロテオーム解析により同定した。活性酸素の発生源である葉緑体のタンパク質以外に,細胞質,アポプラストなどさまざまな細胞内部位のタンパク質がRAL修飾を受けることが明らかになった。(3)さまざまな葉緑体タンパク質,複合体に対するさまざまなRALの影響を網羅的に解析し,ホスホリブロキナーゼ(PRK)が最も感受性が高く,RALのなかではアクロレインが最も毒性が強いことを見いだした。(4)RALにより失活したPRKのチオール基定量から,アクロレインによるPRKの失活は,酵素の酸化還元応答性チオール基への結合によるが,ホルムアルデヒドによる失活はそれとは異なる機構であることを明らかにした。(5)タバコBY-2培養細胞に対しRAL添加でプログラム細胞死が引き起こされることをみいだした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)塩ストレス初期に多種類の活性カルボニルによるタンパク質修飾が生じることを明らかにし,標的タンパク質を同定したから。 (2)葉緑体成分の活性アルデヒドによる機能損傷を網羅的に解析した結果,ホスホリブロキナーゼ(PRK)が最も感受性の高い標的タンパク質であることを明らかにしたから。 (3)PRKに対し,アクロレインとホルムアルデヒドは異なるメカニズムで失活を引き起こすことを明らかにしたから。 (4)タバコ培養細胞のプログラム細胞死に活性カルボニル種が関与するという予備的結果を得たから。
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今後の研究の推進方策 |
(1)RAL修飾を受ける標的タンパク質の解析。タンパク質のRAL修飾が塩ストレス初期に生じていたことから,標的となるタンパク質の機能損傷が細胞障害をもたらしたと推測できる。とくにRAL修飾を受けやすい標的タンパク質に関し,その修飾メカニズム,タンパク質機能への影響,細胞の代謝への影響を解析し,RALが細胞障害をもたらすメカニズムを解明する。 (2)プログラム細胞死(PCD)へのRALの寄与の評価。植物細胞にPCDを引き起こす過酸化水素やポリアミンは,副産物としてRALを生成する。RAL消去剤(ヒドララジンなど)によりPCDが抑制されるかを検証し,RALがどの程度PCDに寄与するかを評価する。 (3)光照射下の葉緑体でのRAL代謝。光照射下では葉緑体のチオレドキシン制御により多くの酵素のジスルフィド基がチオール型となり,RAL感受性が高まると予測される。一方,還元力が供給されるためRAL消去能も高まるはずである。光照射下の葉緑体にアクロレインなどのRALを与え,光合成活性に対する影響を解析し,RALの代謝機構と毒性を暗条件下の葉緑体と比較する。
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