ゼニゴケのtdTomato-talin発現株を用いて、青色光による葉緑体光定位運動に際しての葉緑体アクチンフィラメントの変化を解析した。ゼニゴケ細胞の葉緑体上にはシロイヌナズナよりも太く数が少ない葉緑体アクチンフィラメントが葉緑体全体に網状に存在する。個々の葉緑体アクチンフィラメントは葉緑体周縁部から生じ、束化、結合、切断等、活発なダイナミクスを示し、網状となっている。青色光照射にともない、このアクチンが葉緑体上で進行方向前端部へ偏在を示した後、光定位運動が生じる。このように、基本的にシロイヌナズナと同様なメカニズムで運動が誘発されていることがわかった。これに対し、ヒメツリガネゴケでは光照射前に葉緑体アクチンはほとんど見られず、青色光による定位運動中の葉緑体でも前端部へのアクチン偏在はあまり認められないが、定位部位に到達し、運動停止した葉緑体では全体に、分枝したメッシュワーク状アクチンが出現する。これはヒメツリガネゴケ葉緑体の定位運動には微小管系とアクチンフィラメント系が重複して使われているものの、通常は微小管系が主に使われ、アクチンメッシュワーク構造は定位部位への葉緑体の繋留に働くと考えられる。この葉緑体アクチンの変化は青色光反応だけでなくフィトクロム依存の赤色光でも同じである。これらの結果はヒメツリガネゴケ、ゼニゴケにおける葉緑体光定位運動が、基本的にシロイヌナズナと同様な制御系で起こるものの、系統進化的に離れた種間では異なる機構も存在することを示している。
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