葉緑体のNADH脱水素酵素の2種のサブユニットをコードするタバコ葉緑体のndhCとndhKのシストロンは、一部重複している。一般的には下流のシストロンの翻訳は上流シストロンに比べ極めて低いので、ndhKの翻訳が低いと想定される。 ndhC/ndhK mRNAを、われわれが開発したin vitro系で翻訳したところ、意外にもNdhCサブユニットとNdhKサブユニットが等量合成された。上流のndhCの終止コドンを除くと下流のndhKの翻訳は起きないこと、更に、上流の5'UTRとそれに続くAUG開始コドンを除いてndhCの翻訳を止めても、ndhKがかなり翻訳されることを最近発見した。この知見から、ndhKシストロンは二つの機構で翻訳されるとする『1シストロン2翻訳機構』仮説を立てた。本研究では、この仮説に基づく新しい第2の機構の分子機構を、我々の葉緑体in vitro翻訳系を用いて明らかにする。 本年度は、タバコ葉緑体のndhKの翻訳は、ndhKフレームに緑色蛍光タンパク質コード領域(GFP)を付けて蛍光で測定し、以下の3点の解析を進めた。 1) ndhCシストロン(360nt)を体系的に欠失実験して、第2の機構の必須領域としてndhCシストロンの中央部とndhKシストロン直前部の各々40ヌクレオチドを同定した。 2) ndhCのUAG終止コドンを除くと、このndhK翻訳は起きないので、リボソームはndhCフレームを認識して入ると考えられる。ndhCシストロン内に同じフレームのAUGが3個あるので、各AUGの変異実験でndhK翻訳を調べたところ、第2番目のAUGを変化させるとndhK翻訳が止まることを見出した。 3) 第2番目のAUGから57コドンあり、このORFが翻訳されるかどうかを蛍光リジルtRNAを使って調べた。もし翻訳産物があるとしても極めて少ないと考えられる。
|