平成24年度は,マウス胚唾液腺上皮を用いて,分枝形態形成に促進的に働く自己分泌型成長因子に焦点を絞り,研究を進めた。唾液腺上皮をFGF7添加培地で培養する際にLysophosphatidic Acid(LPA)を加えると分枝が増強されることを見つけた。LPAはEGFファミリー成長因子(EGFs)のシグナリングを増強する因子なので,FGF7刺激された上皮からEGFsが自己分泌され,これがLPAと協調して分枝を誘導するという機構が考えられる。そこで,この仮説を検証した。 (1)マウスでは主要なEGFファミリー成長因子は6種存在する。そこで,これら6種のプライマーを設計し,唾液腺原基から単離した上皮について,その発現の有無をRT-PCR法により調査した。その結果,TGFα,HB-EGF,NRG1の3種が上皮で発現していることが判明した。また,FGF7添加培養した上皮においてもこれら3種のEGFsの発現が確認できた。 (2)上記で発現が判明した3種のEGFsの分枝誘導能がLPAによって増強されるかを調査した。その結果,どれも増強効果が認められた。 (3)FGF7+LPA培養条件で誘導される分枝へのEGFシグナリング阻害剤の影響を調査した。その結果,EGFsを加えていないにもかかわらず,分枝が顕著に抑制された。 以上の結果は,外因性のFGF7が上皮に作用してEGFsの産生・分泌を促し,これが自己分泌型で上皮に作用して分枝が進行するという仮説を強く支持している。
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