研究概要 |
緑藻クレブソルミディウム(Klebsormidium flaccidum)は,細胞が一列につながった糸状の藻である.細胞内に核,葉緑体,ペルオキシソーム(マイクロボディ)が1個ずつ,そして少数のミトコンドリアを持ち,細胞は非運動性である.したがって,細胞周期におけるオルガネラの動態を,顕微鏡下で同一の生細胞で連続的に観察することが可能である.また,急速凍結固定が容易で,微細構造を電子顕微鏡によって高解像度で観察することもできる(Honda & Hashimoto, 2007).本研究の目的はクレブソルミディウムのペルオキシソームと微小管のGFPによる可視化である.この目的の中で最も根幹をなすのが,この生物における形質転換法の確立である.藻類ではシロイヌナズナなどとは違って,一般に形質転換が容易ではなく,形質転換法が確立している種は少ない. 初年度(22年度)において,パーティクルボンバードメント法を用いたDNA導入実験によりble-cgfp遺伝子が発現した一過性形質転換細胞が見出された-その数は僅かでGFPの発現レベルも低かったが,クレブソルミディウムの形質転換が可能であることを示唆しており,重要な成果であった.この成果を踏まえ,23年度はble-cgfp遺伝子の発現レベルと一過性形質転換体の出現率を高めることに主眼を置いた.そのために,パーティクルボンバードメント法を行う際の,金粒子のサイズやDNAを金粒子に付着させる条件,そしてGFP遺伝子に連結するプロモーター領域などについてさらに検討した.その結果,金粒子が細胞内に入り,期待通りに核から(用いた融合遺伝子の産物は核内に局在することが期待される)GFPの蛍光が発している細胞が見出された.出現率は高くはないものの,初年度に見出された形質転換細胞に比べれば,その率もGFPの発現レベルも増加し,今後の進展が期待された.
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今後の研究の推進方策 |
24年度においては,形質転換の条件を以下のようにさらに検討する.(1)これまで行ってきたパーティクルポンバードメント法の諸条件のさらなる検討.(2)アグロバクテリウムを用いた形質転換を試みる.(3)形質転換細胞を選別するために,導入する遺伝子コンストラクトにはフレオマイシン耐性遺伝子が組み込まれているが,効率よく選別するために,培地の条件等をさらに検討する.(4)クレブソルミディウムの死んだ細胞やダメージを受けた細胞からはGFP蛍光とある程度紛らわしい自家蛍光が出るため,それらを排除または容易に区別する方法を検討する.形質転換法の確立を目指すことと平行して,細胞周期におけるペルオキシソームと微小管の関わりについての,電子顕微鏡観察による研究も進める.
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