顎を持たない原始的な脊椎動物であるヌタウナギ類では、下垂体-生殖腺を機能軸とする生殖内分泌現象や繁殖様式等の生物学的な知見が極めて乏しい。本研究では、ヌタウナギ類の下垂体-生殖腺の機能分化と内分泌系との関わりを明らかにする第一歩として、(1).ヌタウナギ類の生殖腺の発達過程と血中の性ステロイドホルモンの分泌動態を理解する、(2).生殖腺で発現する機能マーカー分子の単離とその機能を理解することを目的とし、研究を進めた。 まず、様々な生殖段階を示すクロヌタウナギの血液中の性ステロイド分泌量を時間分解蛍光免疫測定法により測定した。血液中のエストラジオール17β(E2)量は、雌雄個体ともに生殖腺の発達に伴い上昇した。一方、テストステロン(T)量は、E2よりも分泌量がはるかに低く、精巣の発達指標(GSI値)とは相関が認められなかったが、TがE2の前駆体として機能的である可能性が示唆された。以上の結果から、ヌタウナギ類の血液中には少なくともE2とTが存在し、E2が生殖腺の分化に関与する主要なホルモンであると考えられる。 次に、成熟した雄の精巣のcDNAライブラリーを構築し、生殖腺で発現する機能分子群の網羅的遺伝子探索を行った。総数1296クローンのシーケンス解析の結果、生殖内分泌現象に関連した分子種として3種が認められた。そのうち、ステロイド合成に関わるコレステロール側鎖切断酵素(CYP11A)に着目し、その全長構造の同定をほぼ終えた。また、CYP11A遺伝子の発現量は、精巣ではGSI値が高くなるに連れて上昇すること、雌では卵径が10mm以上の成熟進行個体で急激に発現量が増加することが示された。以上のことから、ヌタウナギ類の生殖腺でも他の脊椎動物と類似したステロイド合成系が存在すると予測される。
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