研究概要 |
平成22年度の研究計画において、水陸両生魚と河口棲両生類の環境適応における生理的順化実験と浸透調節器官における新規窒素代謝産物輸送体の探索を目的とした。浅海の岩礁棲両生魚のヨダレカケと干潟棲トビハゼを材料として、尿素輸送体とアンモニア輸送体のクローニングを行った。ヨダレカケについては、大気曝露により窒素代謝産物の尿素濃度の上昇ならびに排泄量の増加が観察された。一方、アンモニアの血中濃度や排泄量には有意な差が認められなかった。 肝臓の尿素合成系酵素(CPS IIIとARG)ならびにアンモニア輸送体(Rhbg,Rhcg1とRhcg2)と尿素輸送体(UT)のクローニングを行った。アンモニア輸送体の推定アミノ酸配列は、硬骨魚の既知のアンモニア各輸送体と高い相同性を示した。UT輸送体mRNAは、哺乳類のUT-A2型に比較的高い相同性を示した。大気曝露処理により、尿素合成系酵素のmRNAが上昇した。また、UT輸送体は腎臓で増加がみられたが、アンモニア各輸送体mRNAには有意な変化は見られなかった。トビハゼについては、鯉と腎臓の電子顕微鏡観察を行い、陸生に良く適応した構造であることを観察した。 河口棲両生類カニクイガエルについは、陸、海水環境曝露処理後、血液成分の分析を行った。陸、海水曝露個体では体液量の減少と尿素濃度、Na、Cl濃度の上昇がみられた。また、副腎皮質ホルモン(アルドステロンとコルチコステロン)濃度の上昇が観察された。幼生については、40%海水中に生息していることを観察し、80%海水中で生息可能であることを順化実験により確認した。また、鰓と腎臓の電子顕微鏡による観察を行った。尿素合成系酵素と尿素輸送体の遺伝子の探索と発現について実験継続中である。 この結果より、岩礁棲両生魚の窒素代謝について分子レベルで初めて明らかになった。また、河口棲両生類幼生の耐塩性について、更に新しい展開が期待できる。
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