研究概要 |
尿素が脊椎動物に共通の「浸透圧調節物質」であることを実証するため、環境適応における尿素合成と体内蓄積を調べるとともに、分子生物学的に合成酵素の発現と尿素輸送機構ならびにその内分泌制御について明らかにした。 ①水陸両生硬骨魚の陸生適応と尿素貯留機構および内分泌制御 ヨダレカケでは鰓が主要な浸透圧調節器官であるが、陸上では尿素合成酵素遺伝子とアンモニア輸送ならびに尿素輸送に関わる鰓と腎臓の細胞膜輸送体の発現が上昇し、肝臓での尿素合成の促進とともに尿素貯留が生じる。さらに血中コルチゾル濃度上昇も見られるが、尿素合成と貯留に直接的に作用しているかについては、明らかではない。②汽水生両生類の成体と幼生の尿素合成、貯留と制御機構 カニクイガエル成体では、海水順応時に体液浸透圧上昇と体液量減少が見られ、尿素合成と尿素貯留が生じる。また、アンギオテンシン―アルドステロン系ならびにバソトシンが増加傾向を示した。これら各ホルモンの上昇が尿素合成と貯留に関与する可能性が高い。後肢形成期の幼生は尿素合成能を獲得しており、海水中では変態前期には尿素合成と尿素輸送体の発現が上昇した。幼生の海水適応には尿素以外の生理機構も役割を果たしている可能性がある。③陸生爬虫類の尿酸輸送タンパクの発現と発現調節 グリーンアノールは、乾燥により血中尿素、尿酸値が著しく上昇した。尿素と尿酸排泄の割合は、体液変動により大きく影響を受け、体液量減少時には尿酸の割合が増加する。尿酸輸送体のGalectin9とGLUT9a,9bの組織発現と体液変動との関わりを調べたところ、絶水処理によりGalectin9とGLUT9aが腎臓と総排泄腔ならびに脂肪体で増加した。 脊椎動物では体液量減少により、窒素代謝老廃物の尿素を合成、貯留して、水分の体外への蒸散を抑える。陸生爬虫類ではこの生理機構を利用するより、尿酸による処理を発達させている。
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