研究概要 |
昨年度までの研究成果を踏まえて,(1)GLUT4, -10, -13(HMIT)に着目した免疫組織化学的解析,(2)蛍光グルコース誘導体を利用したグルコース輸送経路可視化による生理的糖輸送経路の解明,および(3)血管条血管系と機能分子の新しい同時観察法の開発,について検討した。 (1)ラット蝸牛凍結切片を用いて免疫染色により局在解析したところ,GLUT4およびGLUT10は基底細胞に発現することが示唆された。血管条におけるグルコース輸送経路として,基底細胞を介する外リンパからの流入経路が予想された。また,HMITは辺縁細胞にその強い陽性シグナルが認められた。脳や腎臓において,HMITはイノシトールリン脂質の代謝に関与すると考えられている。さらに,HMITはH+の輸送にも関わっていることから,内リンパ液のpH調節に関与している可能性も示唆された。内耳液性制御機構に重要な役割を果たしていると予想された。 (2)蛍光グルコース誘導体(6-NBDG)を血中に投与後,直ちに血管条を摘出し,その蛍光分布を解析した。6-NBDG由来の蛍光が,辺縁細胞基底側膜を超えて辺縁細胞層に拡散していることが判明した。辺縁細胞への生理的なグルコース取り込みが証明された。 (3)血管条において毛細血管網と機能分子の組織構造を保持したまま3次元観察可能となる新たな方法を開発した。本法の特徴は,メタクリレート系樹脂(Mercox resin®)が蛍光特性を有することを利用し,いわゆるcorrosion castingと呼ばれる血管鋳型法とは異なり,血管内に樹脂を注入するものの組織を取り除くことなく蛍光観察できる点にある。この手法は毛細血管網が発達した他の組織にも応用可能であり,これまで困難であった血管と特異的な機能を有する細胞との関係についての3次元的解析を可能とする。
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