細胞外基質アリールスルファターゼ(Ars)による形態形成制御機構を解明するために、初期発生から器官形成に至る細胞の形態・構造、移動等の変化の解析に適したメダカを用いて以下の研究を実施した。(1)細胞外基質Arsの分子環境の解明……前年度に確立した細胞外基質を保持した蛍光抗体染色法と免疫電顕により、ArsAが血管内皮細胞の内腔に面した細胞表面に局在していることを確認した。ArsB は、組織ごとにプロセッシングにより低分子化した細胞内型とプロセッシングを受けない細胞外分泌型の割合が異なり、細胞外分泌型は脳に多く、脳室に面した上衣細胞と考えられる細胞で主に合成され、脳室内に多く局在していることが示された。脳室内では、ArsB とコンドロイチン硫酸プロテオグリカン、コラーゲンI抗体で認識される分子とが共局在していた。(2)Arsの形態形成における機能の解明……Arsの発現異常が形態形成に及ぼす影響を調べた。ArsBモルフォリノオリゴによる翻訳抑制胚では、胚全体でArsBの発現が低下し、頭部形成不全を含む発育遅延が認められた。しかし、胚発生期には主に細胞内型ArsBが検出され、ArsBのアミノ酸が変異したメダカでは胚発生期の形態形成には殆ど影響が確認されなかった。発生初期には細胞内Arsが主に機能している可能性がある。(3)細胞外基質Arsによる形態形成制御モデルの検討……ArsA、ArsB共に種々の組織で合成されていたが、細胞表層での局在、細胞外基質との共局在は、血管や脳室等の循環系に面した領域に限られていた。胚発生期には細胞内Arsの割合が多く、Arsモルフォリノオリゴ処理が他の細胞外基質の発現や局在に及ぼす影響は低かった。Arsは循環系を介して発生後期に細胞外基質としての分子環境を築き、機能している可能性が示唆される。
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