本研究では、弱電気魚の時間情報処理機構を解明することを目的として、(1)抑制性シナプス受容体の探索と局在解析、(2)ジムノティ目の時間情報処理回路の形態学的解析、を行なっている。平成24年度は、以下のような結果を得た。 (1)ジムナルカス後脳内細胞層における時間情報処理回路の免疫組織化学的解析 抑制性伝達物質の受容体の局在を詳細に調べた。グリシン受容体は、卵形細胞とS型感覚神経の終末に免疫反応性が観察されたが、これらはジェフィリンの結果と矛盾し、確証は得られなかった。一方、GABAB受容体の免疫陽性反応は、S型感覚神経と巨大細胞に観察され、卵形細胞は陰性であった。すなわちGABA性の卵形細胞に入力するS型感覚神経と巨大細胞に対して卵形細胞がGABAを放出してフィードバック制御を行っていると考えられる。後脳内細胞層におけるこれらの細胞のシナプス関係は、哺乳類の聴覚系の上オリーブ核によく似ていることが示唆された。 (2)ブラチハイポポマス大細胞核(MMN)の微細形態 前年度同定した3種類の細胞のシナプス関係を電顕で調べ、また小細胞の投射先を色素注入実験によって調べた。その結果、大細胞、洋梨形細胞は、小細胞の細胞体に電気シナプス、樹状突起に興奮性シナプスをそれぞれ介して入力していた。また、小細胞はMMNの外部に出力していた。小細胞に相当する細胞は、ジムナルカスの卵形細胞のほか、他のグループにも存在し、2つの入力間の時間差を比較していると考えられる。しかしながらこの細胞は実験的な取扱いの難しさから、その生理学的知見はほとんどない。本実験により、ブラチハイポポマスの小細胞が比較的容易に扱えることがわかり、またジムノティ目特有のMMNが時間差比較に特殊化したものであることもわかった。従って時間差比較のしくみを調べるための今後の生理学実験が、他種より容易であると期待される。(原著論文として発表)
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