研究概要 |
今年度は,1)ショウジョウバエ羽化時計ニューロンの候補PDF-Triと脱皮運動を駆動するCCAPニューロンの微細構造の解析,2)大型ハエの羽化行動の解析を行い,以下の知見を得た。 1) PDF-Triは後大脳に細胞体をもち,median bundleを経由して脳間部皮層内に走行し,分枝して細胞体に近接して終末する。pre-embedding免疫電顕法による観察で,PDF抗体陽性繊維が脳間部細胞体から発した繊維にシナプス様の接触をしているのが観察されたが,細胞膜の保存状態が不良のためシナプス結合と断定できなかった。固定液の変更による膜保存の改良が今後の課題である。一方,PDF-Triが広く分枝を広げる食道下神経節の後方域中央部および食道直下域には、CCAPニューロンの分枝が分布し,共焦点レーザー顕微鏡観察で両者の分布が重なることが確認された。pre-embedding免疫電顕法による観察では,食道下神経節の食道直下の中央域で,大型有芯小胞(DCV)を含むCCAP抗体陽性繊維が,DCVを含む抗体陰性繊維と接して観察された。これらの観察から,PDF-Triが脳間部神経分泌細胞と脱皮運動を駆動するCCAPニューロンの両方に出力している可能性が示唆される。二重免疫電顕法によるPDF-TriとCCAPニューロンのシナプス結合の直接的証明は今後の課題である。 2) シリアカニクバエでは羽化に明瞭な概日リズムが認められ,羽化の約4~16時間前に概日時計からの指令がホルモンカスケードへ伝えられることを示唆する結果が得られた。この知見は,概日時計が関与する羽化ゲートが蛹期のどの時期にあるかを特定するための今後の研究に重要な情報を提供するものである。一方,ルリキンバエでは羽化リズムは見られなかった。大型ハエ二種における,羽化リズムの有無とPDF-Triの形態の比較解析は今後の課題である。
|