研究概要 |
概日時計によって昆虫の羽化リズムが制御される仕組みを明らかにするために,今年度は以下の実験を行った。 1)ショウジョウバエの羽化時計ニューロンと推定されるPDF-Tri(dPDF-Tri)と,脱皮運動を駆動する食道下神経節側方CCAPニューロン(dCCAP-sogl)の投射域が食道下神経節中央域で重なる。この領域に注目して,dCCAP-soglをプレエンベッディング法(ABC法)で,また,dPDF-Triをポストエンベッディング法(IgG-gold法)で標識する,二重免疫電顕法によって両者のシナプス結合関係を調べた。その結果,食道下神経節背側中央域で,dPDF-TriからdCCAP-soglに出力するシナプスが観察された。 2)シリアカニクバエの羽化には明瞭な概日リズムが認められる。羽化に関わるニューロン群をショウジョウバエと比較するため,シリアカニクバエの脳をCCAP-およびPDF-抗体を用いて二重蛍光抗体法で染色し,形態を調べた。その結果,食道下神経節には,dCCAP-soglと対応する4対のCCAPニューロン(sCCAP-sogl)が存在するが,dPDF-Triに対応するニューロンは見られず,由来不明のPDF陽性繊維が分布すること,また羽化24時間後には,sCCAP-soglが検出できなくなることを明らかにした。これは,食道下神経節に存在するPDFニューロンの羽化における機能を解析する上で重要な知見である。 3)シリアカニクバエは,蠕期には光にはほとんど反応しないことから,温度を同調因子として用いて羽化リズムの解析を行った。高温期12時間,低温期12時間(TC 12:12)の温度周期下で蛹化した個体を,蛹期最終時期において高温条件下におき,4時間の低温パルス刺激が羽化リズムに及ぼす影響を調べた。その結果,羽化のゲートは羽化18時間前よりも後にあることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
二重免疫電顕法で良好な細胞膜保存と免疫標識を得るための最適条件の選定に時間を要したため,当初予定していたショウジョウバエ背側時計ニューロンDN2とCCAPニューロン(あるいはPDF-Triニューロン)とのシナプス結合関係の解析を行うことができなかった。また,液性因子が羽化のゲート設定に及ぼす影響の解析は,まずゲートの時期を決める必要があり,この解析に時間を要したため液性因子のインジェクション実験にまで到達できなかった。
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今後の研究の推進方策 |
プレエンベッディング法(ABC法)とポストエンベッディング法(lgG-gold法)を併用する二重免疫電顕法では,多くのステップを経るため細胞膜保存の良否が判明するまでに最低3週間を要する。これを改善するため,二重免疫電顕法の時間短縮法として,ABC法とナノゴールド金増感法を併用してプレエンベッディング法のみで弁別標識する方法を確立した。次年度はこの方法をさらに改良して実験の効率化を図る。 また,連携研究者や海外研究協力者との共同研究関係を強化して,実験に携わる人的資源の補強,実験に用いるショウジョウバエGAL4系統やペプチド抗体の入手の効率化に努め,研究の迅速化を図る。
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