研究課題/領域番号 |
22570077
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研究機関 | 徳島文理大学 |
研究代表者 |
松尾 亮太 徳島文理大学, 香川薬学部, 准教授 (40334338)
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キーワード | 軟体動物 / 偏側性 / 嗅覚忌避学習 / 神経伝達物質 |
研究概要 |
ナメクジは、嗅覚忌避学習を形成可能であり、この記憶には脳神経節の一部分である前脳葉と呼ばれる左右一対の部位が必要である。一方、神経活動マ-カ-(蛍光色素)を指標とした組織学的解析から、記憶形成時には左右いずれか片側の前脳葉しか使われていないことが他のグループにより示唆されている。本研究では、外科的脳破壊技術と電気生理学的手法を用い、片側の前脳葉のみが学習に用いられる神経メカニズムの解明と、記憶が左右の前脳葉間で転送されるかどうかを明らかにすることを目的としている。特に前年度、研究代表者らは外科的脳破壊技術と行動実験を組み合わせることで、左右の前脳葉が何らかの相互作用を起こして一方のみが記憶機能にかかわるようにするメカニズムが存在することが示唆された(Matsuo et al.2010)。このため、前脳葉の存在する脳神経節において、左右間でどのような神経ネットワ-クがあるのかを詳細に解析することが重要であると考えた。そこで2011年度は、既に大脳神経節で左右半球間での連絡が存在することが知られているグルタミン酸やセロトニン以外の神経伝達物質の投射様式を調べる目的で、アセチルコリンおよびGABAについて、それらの大脳神経節における投射様式を組織化学的に調べた。その結果、GABAについては左右の密な連絡が認められた。一方、アセチルコリンは分解が早いため、組織学的にその分布を解析するには合成酵素であるコリンアセチルトランスフェラ-ゼタンパクを抗体染色によって可視化する必要があった。そこでコリンアセチルトランスフェラーゼ(ChAT)遺伝子をホモロジークローニングにより取得したところ、哺乳類のChATのアミノ酸配列と高い相同性を示すことが分かった。現在は、その配列に基づき、ペプチド抗体およびリコンビナントタンパクに対する抗体を作成し、それらの品質をチェックしているところである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
前脳葉破壊を利用した行動実験については、そのほとんどが平成22年度に終了しており、平成23年度はその神経機構に迫るべく、脳で左右連絡を形成している神経の伝達物質について追究した。その際の副産物として、巨大ニューロンペアVGCsが発現しているニューロペプチドがNdWFamideであることを明らかにした。本題の、機能的偏側性に関与する左右連絡を形成する主要な伝達物質としては、アセチルコリンに着目して研究を進めており、関連するChATやAChEなどについて分子クローニングが済んでいることから、概ね順調な進展であるといえる。
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今後の研究の推進方策 |
上述の通り、当面ばChATに対する良質な抗体を得ることに全力を注ぐ。アセチルコリンは、触角神経節から前脳葉への入力線維にも含まれていると考えられており、ChATに対する抗体が得られれば、一次嗅覚中枢(触角神経節)から二次嗅覚中枢(前脳葉)への入力経路についても同時に可視化できるものと考えられる。また一方、現在、さまざまな動物における脳機能の偏側性いついて文献調査を進めており、ナメクジで左右ランダムな様式で記憶学習機能が左右前脳葉に担われていることの意味についても考察している。
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