ナメクジの嗅覚忌避学習には脳神経節の一部分で、高次嗅覚中枢であるとされる前脳葉と呼ばれる左右一対の部位が必要である。一方、神経活動マーカー(蛍光色素)を指標とした組織学的解析から、記憶形成時には左右いずれか片側の前脳葉しか使われていないことが他のグループにより示唆されている。本研究課題における昨年度までの結果により、行動実験レベルでこのことが実証され、さらに片方の前脳葉のみが使われることの根底に、左右前脳葉間での相互抑制メカニズムが存在することが示唆された(Matsuo et al. 2010)。さらに昨年度は、左右前脳葉間の相互連絡を担う神経伝達物質候補として、FMRFamide(Kobayashi et al. 2010)、NdWFamide(Matsuo et al. 2011)などについて調べてきた。そこで今年度は、残された古典的神経伝達物質であるGABAおよびアセチルコリンについて、その分布と左右前脳葉間の投射を調べてみた。その結果、GABAについては前脳葉が存在する大脳神経節において、密な左右連絡があることが示されたものの(Kobayashi et al. 2012)、コリンアセチルトランスフェラーゼを指標とするアセチルコリン性の投射については現在も、作成したポリクローナル抗体のクオリティーを引き続きチェックしているところである。なお、FMRFamideとGABAについては、ともに左右間の相互投射があり、なおかつ外部からの投与により前脳葉の活動性(局所場電位振動)を大きく変化させることが明らかになっている(Matsuo et al. 2011; Kobayashi et al. 2012)。アセチルコリンについても、投与により局所場電位振動が大幅に速くなること(Watanabe et al. 2001)から、左右連絡を担う神経伝達物質としての可能性を残している。
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