同じタスクを学習しても動機(モチベーション)によって学習効率や記憶の保持期間が異なるが、なぜそのようなことが生じるのかについての神経メカニズムはわかっていない。ミツバチの8の字ダンスによるコミュニケーションにおいて、巣内のミツバチはダンスバチが持ち帰った蜜に残留する餌場のにおいを記憶している。よって、コロニー内にはダンスバチとの接触度合いにより、積極的に記憶するミツバチ、非積極的に記憶するミツバチ、無意識に記憶しているミツバチが存在する。このことに着目し、それぞれのミツバチにおいて記憶したにおいに対する脳の神経活動を比較し、学習時の動機によって記憶・学習効率の違いを生み出す神経メカニズムを解明することを目的とした。 今年度、これまでに記録した神経活動と学習効率との関係の解析を行ったが、現在のところ当初に期待していたような違いを見つけるにはまだ至っておらず、精力的に解析を続行中である。しかし、本研究課題遂行中に昆虫の脳の最高次中枢であるキノコ体のニューロンのひとつであるPE1と呼ばれる出力ニューロンが、学習訓練を繰り返すことによって徐々に神経発火の頻度を減らしていくことがわかった。興味深いことにこの発火頻度の減少は記憶が成立する直前に最も減少し、記憶が成立した後も低い発火頻度を維持していることを見つけた。さらに、PE1の匂い刺激への反応は記憶の成立時ではなく、成立した直後に変化し始めることがわかった。これらの発見は、脳内で記憶がどのように形成されていくかを解明するためのブレークスルーになる可能性がある。
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