研究課題/領域番号 |
22570079
|
研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
藍 浩之 福岡大学, 理学部, 助教 (20330897)
|
研究分担者 |
池野 英利 兵庫県立大学, 環境人間学部, 教授 (80176114)
|
キーワード | 脳・神経 / 行動学 / 神経科学 / 昆虫 / 生理学 |
研究概要 |
ミツバチの尻振りダンスによる振動コミュニケーションは、栄養交換のような匂いコミュニケーションと密接に関連している。昨年度から今年度にかけて、特定の匂いの古典的条件付けによって生じるミツバチの学習が、その後の匂い刺激により誘発される歩行様式にどのような影響を持つのかを、ミツバチの自由歩行が可能なアリーナ内とトラックボールを用いた歩行軌跡解析システムで調べた。その結果、以下のことが分かってきた。 1.複数の匂いエリアをもつアリーナでのミツバチの行動実験の結果、あらかじめ特定の匂いに報酬条件付けを行うと、その匂い(CS+)エリアでの滞在時間が他のエリアでの滞在時間よりも有意に長くなる。 2.弁別条件付けで報酬と連合学習した匂い刺激(CS+)で、匂い刺激を受容した場所を局所的に探索する行動が生じ、報酬と無関係に学習した匂い刺激(CS-)で、匂い刺激を受容した場所とは関係なく比較的広い範囲を歩行する。 3.CS+により体軸を左右交互に変換しながら前進する「ジグザグ歩行」が顕著に現れた。一方、CS-では「ジグザグ歩行」に加え、様々なパターンが不規則に生じた(不規則歩行)。 本研究で明らかになったCS+およびCS-により誘発された2つの特徴的な歩行(ジグザグ歩行と不規則歩行)は、巣内でのコミュニケーションを促進するための歩行パターンと考えられ、特にジグザグ歩行は報酬と結びついた匂い源を特定するための探索歩行であると推察できる。 一方、蜜源への距離情報を検出するためのジョンストン器官と方向情報を検出するための頸部器官から、それぞれ蛍光色素を注入し、その感覚統合領域を、標準脳を用いて解析した。その結果、食道下神経節背側領域でこれら2つの感覚ニューロンの終末領域があることが分かってきた。現在、免疫組織学的な研究を進め、これらの領域にある介在ニューロンの神経伝達物質は同定を進めている。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ミツバチの匂い学習に関しては吻伸展反射を用いた評価系が確立されており、これまでに学習の様々な定量的解析が進んできた。我々の研究で、学習によりミツバチの歩行行動がどのように変化するのかを定量的に解析することのできる系を確立できた点、さらに条件づけで学習した匂い刺激で誘発される歩行様式の特徴を明らかにすることができた点は評価に値すると考えている。さらにこれらの行動の音による修飾作用が分かりつつあり、今後は尻振りダンスで生じる振動によりこれらの歩行様式がどのように影響を受けるのかを定量的に解析することにより、尻振りダンスに関連した異種感覚統合機構を調べる上での評価系を確立できると考えている。一方、尻振りダンス解読の一次中枢の解析はベクトル情報の一次中枢の同定を行い、さらに振動情報処理介在ニューロンとの関連も調べている。
|
今後の研究の推進方策 |
平成23年度は成虫羽化後の匂い学習を制限した環境で飼育したミツバチで、条件付けした匂いによって生じる歩行を解析する予定だったが、ミツバチの室内飼育が予想以上に困難であることから、研究計画を変更し、学習した匂いに対する歩行が尻振りダンスで生じる音によってどのような影響を受けるかを解析することにした。すでに音による直進歩行の促進効果が確認されつつあるため、今後は音と匂い源探索行動との関連を、トラックボールを用いた歩行解析で調べていく。一方、尻振りダンスで生じる振動信号の処理に関わる神経回路の全貌を明らかにするために、今後は研究分担者である池野の研究室に、新たに細胞内記録および染色ができる実験設備を整え、福岡大学の藍と並行して、網羅的に振動応答性介在ニューロンの生理、形態データの取得を推進する。両拠点において、ジョンストン器官由来感覚ニューロンの一次中枢に分枝をもつ介在ニューロンに、ガラス微小電極による細胞内記録を行うと同時に、触角への振動刺激、嗅覚刺激、およびそれらの組み合わせによる応答性を解析することにより、異種感覚統合機構を調べる。
|