本研究は、昆虫脳のおける湿度感覚情報処理の高次神経機構を明らかにすることを目的としている。具体的には、ワモンゴキブリを実験材料として、湿度情報処理に関わる前大脳高次ニューロンを生理学的および形態学的に同定し、その機能的特徴および脳内の経路と投射部域を明らかにすることを目指している。平成22年度に実施した研究の成果は次の通りである。ワモンゴキブリの前大脳ニューロンのうち相対湿度情報がどのように処理されているかを細胞内記録法によって解析した。同定可能ニューロンから湿度刺激・温度刺激・匂い刺激に対する応答を記録し、合わせて細胞内染色によってその形態も調べた。その結果、得られたデータから次のことがわかった。(1)以前にNihinoら(2003)が報告したニューロン以外にも多数の糸球体から情報を受ける触角葉マルチ出力ニューロンが湿度に応答することが明らかになり、その応答パターンは匂いに対する応答パターンとは異なっていた。(2)キノコ体出力ニューロンにも湿度応答を示すものがあった。(3)中心体ニューロンにも相対湿度応答を示すものがあった。(4)前大脳側角局所介在ニューロンや前大脳側角出力ニューロンには多様な湿度・温度応答パターンを示しものがあり、応答特異性が高い傾向が見られた。(5)Nihinoら(2003)に報告されている湿度温度中枢(前大脳側角I、II、III)以外にも側角後腹領域の外縁部にも湿度・温度刺激に応答するニューロンがあり、この部分も湿度・温度情報処理の中枢機能をもっていることが示唆された。
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