研究概要 |
本研究の目的は,系統地理解析と生息地予測モデルを統合し,温帯域に生息する冷水性淡水魚類群集の成立過程を明らかにするとともに,気候変動(温暖化)によって深刻な影響を受ける冷水性種の保全単位ごとの絶滅リスク推定を行うことである.初年度は代表的な冷水性淡水魚類のフクドジョウとハナカジカを対象にして計画に従い以下の2項目について研究を実施した 1.冷水性淡水魚類の系統地理解析 対象2種について,網羅的に採集できた北海道地域の標本を対象に系統地理学的解析を行った.2種ともに地理的に対応し遺伝的に分化した種内系統によって構成される系統地理パターンを示した.この2種の地域集団は,主に地理的障壁によって隔離が長期間維持されることによって形成されていると考えられた.一方,対象種の系統地理パターンは類似していたが,種内系統の分岐年代は大きく異なっており,その地理的隔離の年代や地理的起源に違いがあるものと考えられた.このことから現在の分布が類似する種間でもその分布域形成の歴史には固有の特徴があることが改めて示された 2.冷水性淡水魚類の生息地予測モデルの構築法の確立 データベースから気候・植生データを入手するとともに,地形図から河川流量などの地形データを作成した.既知の文献および自分の採集データから対象種の生息情報を集約し,生息地データを作成した.これらの環境データ(計22)と生息地データから,最大エントロピー法により環境データのモデル選択を行い,生息地予測モデルを構築した.この解析では,生息地予測モデルに貢献している環境データが種間で異なっていた(フクドジョウは主に地形要素,ハナカジカは気候要素)ことから,対象種間の生態的な差異を反映した種固有のモデルが構築できたものと考えられた
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