研究概要 |
Drosophila melanica種群(カラスショウジョウバエ種群)は欧米の進化遺伝学者によってその系統進化が詳細に研究されている。そのうちDrosophila tsigana Burla & Gloor(和名カラスショウジョウバエ)はユーラシア中緯度地帯の広域分布している種で,各地方集団には外部形態上の変異があることが知られていた。本年度の研究で日本列島における自然集団の遺伝的分化の程度についての概略が分かった。すなわち九州地方から東京までの暖温帯に分布しかつて"Drosophila pengi"とされていたものは中国南西部の集団と同じ形態や核型をもち,両集団間では生殖的隔離が存在しない。これらは欧州ピレネー山脈から原記載されたDrosophila tsiganaそのものと言える。一方,札幌近郊のものは暖温帯型と腹部背板の黒色模様が異なり,両者の間には極めて強い交尾前隔離が存在する。札幌産に関してはNesiododrsophila septetriataとして報告されている(後にDrosophila tsiganaの同物異名とされた)ので,本研究の完成時にはDrosophila septentriataとしてまたはDrosophila tsiganaの1亜種として再記載されることになる。冷温帯型は北海道最南端まで分布していることが明かとなったが,暖温帯型と同所的に分布しているのは分かっていない。地理的分布を明らかにするには暖温帯と冷温帯の移行帯である東北地方での調査が必要である。 ベトナム・バビ国立公園から得られた疑問種について外部形態,生殖器構造,核型構成を調べた結果,melanica種群の1構成種であることが分かった。本種群は温帯種であるので,アジア亜熱帯からの本種の発見は祖先種の可能性があり,極めて重要である。
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