研究概要 |
平成23年3月に実施したベトナム自然保護区での野外調査で得られたカラスショウジョウバエ種群の疑問種,依然として分類学的な課題があるNesiododrsophila septetriataとDrosophila tsigana,および系統姉妹群のクロショウジョウバエ区の十数種について,形態構造の詳細な分析,生殖的隔離機構,地理的分布情報,光周期反応等を調べた。特に前者に関して,近縁種間で量的形質,生殖器構造の詳細な観察を行った。雄の腹部背板の全面が黒色で,外部形態上はユーラシア大陸に広域分布しているDrosophila tsiganaと酷似しているが,Surstylus端部に位置するsetaeが約20と極めて多いこと,aedeagusが極めて短いこと,雌の貯精嚢がキチン硬化していないことなどから,本種群の新種と結論した。核型分析から,本種は2n=12(4R,1V,1D)で,X染色体は端部付着型であること,棒状染色体が4対と本種群のなかでは最多であることから,カラスショウジョウバエ種群の祖先型に最も近い種と考えられた。アジア低緯度高地という分布も興味深い。生物が温帯や寒帯へ生息域を拡大する為には,そこで起きる季節変化に対応しなければならない。特に冬期間を安全に過ごす機構の獲得が必須である。そこでアジア低緯度高地に棲息する3種(新種を含む)について,光周期反応,生殖休眠機構の有無を調べた。実験は,明期11時間から1時間毎に15時間までの間,飼育温度12℃,15℃,18℃で行った。12℃では卵から成虫羽化までには至らなかった。18℃ではどのような光周期でも卵巣発達が進行し,交配がなされた。15℃の短日条件(明期L:暗期D=12:12)では明らかに卵巣発達が抑制された。回帰直線から臨界日長は12.5時間となった。これらの結果から,アジア低緯度地帯で発生したカラスショウジョウバエ種群の祖先種はすでに季節変化に対する適応機構を獲得しており,このことが温帯や寒帯進出を可能とし,異なった気候帯や植生帯での適応放散を導いたものと考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
Drosophila tsiganaの冷温帯タイプと暖温帯タイプ,およびベトナム・バビ自然保護区産の疑問種に関しての形態比較,生殖的隔離機構,核型比較等の研究は予定通り進行している。Drosophila tsigana2タイプの地理的分布上,重要と考えられる東北地方での野外調査は大震災の影響もあり,次年度に延期することにした。
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