カラスショウジョウバエ種群(Drosophila melanica species group)はユーラシア大陸と北アメリカ大陸の温帯域に広域分布しているが,欧米の進化遺伝学者によってその系統進化が詳細に研究されてきた。申請者等による最近の研究から北アメリカ大陸に適応放散している種はどれも系統進化の末端部に位置するもので,本分類群の出現はアジア低緯度山岳地帯に求められることが示唆されていた。 亜熱帯域に位置するベトナム・バビ自然保護区で得られた種について,外部形態,生殖器構造,核型構成を近縁種と比較し調べた。近縁種間での交配前隔離機構を無選択法と雄選択法で調べた。これらの結果からバビに棲息する種は新種で(Drosophila denruoi Awit &Watabe 2013と命名),雄aedeagusの先端部がserrationsを欠いていること,surstylusの中央部のみに微毛が分布していること,雌spermathecaが膜状で硬化していないことなどで他種とは明確に区別できた。近縁種間での生殖的隔離はほぼ完全で,稔性のある雑種第1代は得られなかった。 染色体は2n=12で,その構成は1対の中央部附着型,4対の端部附着型,1対の点状染色体であった。性染色体に関して,Xは端部附着型,Yは異質染色質に富む次中部附着型であった。新種の2n=12の染色体数は本種群で最多である。新種のX染色体は普通の大きさで,北米産の多くの種にみられる大型の中部附着型X染色体の約半分である。常染色体に関して近縁既知種はどれも大型の中部附着型常染色体を有しているが,新種にはみられない。これらから,新種の2対の端部附着型常染色体の動原体融合によって近縁種が有する1対の大型中部附着型染色体が生じた仮説が成立し,核型進化上Drosophila denruoiは祖先種に近い最も原始的な種と考えられる。
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